保育のルールは誰が決めているのか 会議の名簿を全部見ました
保育所保育指針、公定価格、制度そのもの。この3つは別々の場所で決まっています。指針を議論している16人、公定価格を審議する34人の名簿を見て、法律の条文まで遡って整理しました。現場の人は入っているのか、意見はどこで出せるのかまでまとめています。
配置基準が変わった。加算の要件が上がった。指針が改定されるらしい。園に降りてくる話は、どこかで誰かが決めています。
ただ「国が決めた」とひとくくりにすると、見えなくなるものがあります。決めている場所はひとつではありません。
中身とお金は、別の会議です
調べていくと、三つに分かれていました。
| 何が決まるか | どこで話し合われるか | 委員の多数派 |
|---|---|---|
| 保育の中身(保育所保育指針) | こども家庭審議会の保育専門委員会+文部科学省の幼児教育ワーキンググループ | 大学の研究者 |
| お金(公定価格) | こども家庭審議会の子ども・子育て支援等分科会 | 団体の代表 |
| 制度をやるかどうか | 国会 | 国会議員 |
同じ「こども家庭審議会」の名前がついていても、中身を話す会議とお金を話す会議は別で、顔ぶれもほとんど重なりません。 順番に見ていきます。
保育の中身は、総理大臣が決めることになっている
意外に感じるかもしれませんが、条文にそう書かれています。児童福祉施設の設備及び運営に関する基準の第35条です。
保育所における保育は、養護及び教育を一体的に行うことをその特性とし、その内容については、内閣総理大臣が定める指針に従う。
この「内閣総理大臣が定める指針」が保育所保育指針です。こども家庭庁ができる前は厚生労働大臣でした。
さらに児童福祉法の第45条に、決めるときの手続きが書いてあります。
内閣総理大臣は、前項の内閣府令で定める基準を定めるときは、あらかじめ、文部科学大臣に協議しなければならない。(第4項)
同じ条の第3項には、幼稚園の教育課程や認定こども園の教育・保育内容との「整合性の確保」、小学校との「円滑な接続」に配慮しなければならない、とあります。
指針の議論が文部科学省と合同で行われているのは、法律がそう決めているからです。こども家庭庁の保育専門委員会と、文部科学省の幼児教育ワーキンググループが、同じ日に同じ資料で議論しています。
始まりは「諮問」という紙一枚
今回の指針の改定も、一枚の紙から始まっていました。令和7年4月25日付の「こども家庭審議会に対する諮問について(依頼)」です。差出人は内閣総理大臣、宛先はこども家庭審議会。
こども家庭庁設置法第7条第1項に基づき、下記事項について諮問します。
【諮問第3号】保育所、認定こども園における保育の内容の基準等の在り方について
この紙に「御審議をお願いしたい事項」が6つ並んでいて、そこから先の議論は、この6つの中で行われます。こどもが主体的に遊び育つこと、0歳から学童期との接続、一人一人の育ちの保障、地域に開かれた保育と子育て支援、職員の資質の向上、施設類型を問わない共通的方策の6つです。
裏を返すと、ここに書かれなかったことは、その会議では議題になりません。
その6つは、どこから来たのか
諮問理由をさかのぼると、根拠にしている文書が並んでいます。
また、昨年12月に公表された「保育政策の新たな方向性」では、待機児童対策を中心とした「保育の量の拡大」から、「質の向上」へと大きく方向性を転換すること、具体的には、①地域のニーズに対応した質の高い保育の確保・充実、②全てのこどもの育ちと子育て家庭を支援する取組の推進、③保育人材の確保・テクノロジーの活用等による業務改善の3つの柱に基づく取組により
「昨年12月」は令和6年12月です。ほかに、こども基本法(令和5年4月施行)、こども大綱と「はじめの100か月の育ちビジョン」(令和5年12月閣議決定)が挙げられています。議論の枠は、諮問の時点で前の文書から降りてきている、ということになります。
では、そのこども大綱は誰が決めたのか。こども家庭庁のページにこう書かれています。
内閣総理大臣からの諮問により、令和5年4月から「こども家庭審議会」において、こどもや若者、子育て当事者等の意見を聴き、反映させながら、議論を進め、12月1日、答申を取りまとめました。その答申を踏まえ、令和5年12月22日、こども大綱が閣議決定されました。
総理が諮問し、審議会が答申し、閣議決定され、その決定が次の諮問の理由になります。何を諮問するかの枠は、この輪の前のほうで決まっている、ということです。
議論している16人
保育専門委員会の委員名簿(令和8年9月1日現在)を数えてみました。16人の内訳です。
| 立場 | 人数 |
|---|---|
| 大学・研究所の研究者 | 11人 |
| 自治体の職員 | 2人 |
| 保育園の園長 | 1人 |
| 学校法人の理事長 | 1人 |
| 療育センターの院長 | 1人 |
自治体の2人は、舞鶴市乳幼児教育センターの所長と、秋田県こども支援課のチームリーダーです。園長は社会福祉法人愛育会のあけぼの愛育保育園。
取りまとめの議論をしていた時期の名簿(令和7年10月22日時点)は17人で、そこには小平市立小川西保育園の保育士が1人入っていました。名簿は更新されるので、誰が入っているかは時期によって変わります。
文部科学省側の幼児教育ワーキンググループは15人で、幼稚園の園長が2人、小学校の教頭が1人、市の幼児教育センター所長が1人、学校法人の理事長が1人、残りの10人が研究者でした。
どちらの会議も、多数派は大学の研究者です。 現場の人がいないわけではありませんが、多数ではない、という並びになっています。
お金のほうは、顔ぶれが変わる
公定価格を決める根拠は、子ども・子育て支援法の第27条にあります。施設型給付費の額は「内閣総理大臣が定める基準により算定した費用の額」から保護者負担分を引いたもの、と書かれていて、その次の項にこうあります。
内閣総理大臣は、第一項の一日当たりの時間及び期間を定める内閣府令並びに前項第一号の基準を定め、又は変更しようとするときは、文部科学大臣に協議するとともに、こども家庭審議会の意見を聴かなければならない。(第4項)
この「意見を聴く」場が、子ども・子育て支援等分科会です。分科会のページには、審議する内容がこう書かれています。
主に子ども・子育て支援法の基本指針に関する事項、給付費や施設等の各種基準、公定価格に関する事項等について審議を行います。
委員は34人。名簿を見ると、こういう顔ぶれです。
- 保育の団体 … 全国保育協議会、全国私立保育連盟、日本保育協会、全国認定こども園協会、全国小規模保育協議会、家庭的保育全国連絡協議会、全国病児保育協議会など9人
- 幼稚園の団体 … 全日本私立幼稚園連合会、全国国公立幼稚園・こども園長会、私立幼稚園PTA連合会
- 自治体 … 全国知事会、全国市長会、全国町村会、市の教育委員会
- 経済・労働 … 経団連、連合、日本商工会議所
- そのほか … 日本医師会、日本助産師会、保護者の団体(保育園を考える親の会)など
中身の会議は研究者が多数、お金の会議は団体の代表が多数という並びになっています。園長や理事長も複数入っています。
人件費は、国家公務員の給与に合わせてある
分科会の資料を読んでいて、いちばん引っかかったのがこれです。
公定価格の算定に当たっては、人件費・事業費・管理費について、各々対象となる費目を積み上げて算定しており、そのうち、人件費の額については、国家公務員の給与に準じて算定している。
国家公務員の給与は、人事院という別の機関の勧告で動きます。同じ資料に、勧告を踏まえた人件費単価の改定状況が並んでいます。
| 年度 | 改定率 |
|---|---|
| 令和4年 | +2.1% |
| 令和5年 | +5.2% |
| 令和6年 | +10.7% |
| 令和7年 | +5.3% |
保育をどうするかの議論とは無関係に、給与の土台になる数字は、公務員の給与の話として先に動いています。 ここが保育の会議で決まっていると思っていると、話が合わなくなります。
しかも勧告が出るのは夏から秋なので、反映するには補正予算の成立が要ります。令和7年分は、4月まで遡って引き上げる形になりました。処遇改善等加算とはまた別の動きです。
そして最後に決めるのは、園です
ここまでは国の話ですが、国が決めているのは単価までです。その先、誰にいくら渡すかは園が決めます。 同じ資料の要請事項に、こう書かれています。
単純に職員の給与が+5.3%になるものではないところ、改定分の趣旨や内容等を職員に説明すること。
条件はついていて、使い道は全額を人件費とすること、対象者や支払う額が恣意的に偏らないこと、とされています。ただし「基本はベースアップによる差額分を一時金等で支払うことを基本としつつ、その他の方法も妨げない」ともあり、配り方には幅があります。
時期も要請されています。3月中に支払うこと、遅くとも夏季の賞与(無い場合は7月中)まで。前年度分(+10.7%)については、全額を人件費に充てていないとした施設・事業所が約1%あった、という記載もありました。
やるかどうかは、国会で決まる
三つ目の層です。制度そのものを作るのは法律なので、ここは会議ではなく国会です。
こども誰でも通園制度が分かりやすい例でした。
令和6年6月に成立した子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律により、月一定時間までの利用可能枠(月10時間)の中で、就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付として、こども誰でも通園制度を創設
法律が通ったあと、単価や運営の細かいところが分科会にかかり、手引が作られて現場に降りてきます。会議は、法律が作った枠の中身を詰める場所だということになります。
意見は、どこで出せるのか
基準を改正するときには意見公募(パブリックコメント)があります。直近の例として、認定こども園の学級編制基準を「原則35人以下」から「原則30人以下」に引き下げる改正が、令和8年1月15日から2月13日まで意見を募集していました。
結果の資料に、こう書かれています。
合計4件の御意見をいただきました。
4件です。そのうえで、寄せられた意見には一つずつ回答が付いています。たとえば「さらに引き下げてほしい」という意見には、25人以下の学級となっている園が約8割にとどまることなどを挙げて、まずは30人以下にしたい、と返しています。
意見の数がこの規模なので、1件の重みは小さくありません。
資料も議事録も、全部出ている
ここまで書いたことは、すべて公開されているPDFから拾っています。会議のページには、回ごとに議事次第・資料・参考資料・委員名簿・議事録が並んでいます。
ただし議事録は当日には出ません。保育専門委員会の第1回は令和7年10月22日に開かれ、議事録が載ったのは12月でした。子ども・子育て支援等分科会の第15回は8月19日開催で、議事録の掲載は9月に入ってからです。おおむね3週間から7週間前後かかっている計算になります。
決めている人数は多くありません。16人と34人です。ただ、その16人が何を見て何を言ったかは、こちらから読みにいけます。
結局、誰が決めているのか
条文を並べると、決める人はどれも同じでした。
| 何を | 条文の書き方 |
|---|---|
| 保育の内容(指針) | 「内閣総理大臣が定める指針に従う」 |
| 公定価格 | 「内閣総理大臣が定める基準により算定した費用の額」 |
一方、審議会の仕事はこう書かれています。こども家庭庁設置法の第7条です。
前号に規定する重要事項に関し、内閣総理大臣、関係各大臣又は長官に意見を述べること。
その前の号は「諮問に応じて」「重要事項を調査審議すること」です。公定価格のほうの条文も「こども家庭審議会の意見を聴かなければならない」でした。
審議会は決める場ではなく、意見を言う場だと、法律の側で書き分けられています。ここを取り違えると、ずっと決定者を探すことになります。
整理するとこうなります。
- 決めるのは内閣総理大臣。実務としては、こども家庭庁の担当課(保育専門委員会の庶務は成育局成育基盤企画課だと設置文書にあります)
- 意見を言う場が2つあり、中身のほうは研究者が多数、お金のほうは団体の代表が多数
- 何を諮問するかの枠は、その前の閣議決定などで決まっている
- そして、決まったお金を誰にいくら配るかは、最後は園が決める
動かせないのは決める人のほうで、こちらから触れるのは意見が入る場所のほうです。
明日、確かめられること
- 去年の公定価格の改定分が、自分にいつ支払われたか確かめる。 国は3月中、遅くとも夏の賞与までに支払うよう要請し、職員への説明も求めています。心当たりがなければ、事務の担当者に聞いてみる場面です
- 指針の改定は「取りまとめ」の段階まで来ている。 保育専門委員会のページから資料が読めます。自分のクラスの年齢に関わる部分だけでも見ておくと、園に降りてきたときの理解が早くなります
- 基準の改正には意見公募がある。 前回の学級編制基準は4件でした。園で話題になっていることがあるなら、出す先はここです
「上が決めたこと」と言うとき、その上は3つに分かれていて、それぞれ別の人が座っています。名簿はPDFで公開されていて、5分で読めます。
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