保育指針、何が変わろうとしている? 審議の取りまとめ案を読んでみました
保育所保育指針の改定に向けた審議が、取りまとめ案の段階まで進んでいます。中心にあるのは「遊びの深まり」という言葉。記録と振り返り、ICTの使い方、0歳児からの見方まで、現場のやり方に関わる内容が並んでいました。誰が議論しているのかも含めて整理します。
昨日の記事で、保育所保育指針の改定に向けた審議が進んでいることに触れました。その中身が気になったので、審議の資料を読んでみました。
「取りまとめ案」まで進んでいました。 委員会は10回開かれていて、その到達点が公開されています。
まず、まだ「案」です
大事な前置きです。これは委員会の取りまとめ案であって、決まった指針ではありません。
いつ告示されて、いつから使われるのかも、この資料には書かれていません。 前回の指針は平成29年3月に告示されたと資料にありますが、今回の時期は不明です。
なので「こう変わる」ではなく、「こういう方向で議論されている」として読んでください。
中心にあるのは「遊びの深まり」です
取りまとめ案の本文だけで27回出てくる言葉が、これです。新しい指針の骨格になりそうな考え方なので、少し丁寧に見ます。
「深まる」とはどういう状態か
資料はこう説明しています。
乳幼児の自発的な遊びが乳幼児自身の興味や関心、これまでの体験等と結び付き、更に展開したり他の遊びとつながったりしながら、「遊びの深まり」が実現されていく
言い換えると、遊びが同じところで止まらずに、次へ進んでいく状態のことです。
資料に載っている例が分かりやすいです。坂で車を転がしている子が「たくさん傾いていると速く転がるぞ」と気づき、そこで終わらずに「転がす車輪の大きさを変えたらどうなるかな」と次を試す。
ここで起きているのは2つです。気づきが次の試しにつながっていること。そしてその子のこれまでの体験と結びついていること。同じ遊びを繰り返しているだけの状態とは違う、ということになります。
「他の遊びとつながったり」という部分もポイントで、坂の遊びが別の場面に持ち込まれるようなことも含まれます。
なぜそれが大事だとされているのか
資料はこう続けます。
こうした乳幼児にとっての「学び」である「遊び」のプロセスが、資質・能力の育成に深く結び付いていく
つまり遊びが深まる過程そのものが、資質・能力が育つ過程だという整理です。遊びは学びの手段ではなく、遊びのプロセス=学び、という置き方をしています。
保育者は何をするのか
ここが実務に効きます。
幼稚園教諭・保育士・保育教諭が、意図的・計画的に環境の構成・再構成や援助を行うことが重要
「環境の再構成」という言葉が入っています。一度作った環境をそのままにせず、子どもの姿を見て組み替えていく、ということです。
「遊ばせる」でも「教える」でもなく、深まるように環境を組み替え続けるのが保育者の仕事、という位置づけになっています。環境構成が、より動的なものとして扱われそうです。
「10の姿」も、この言葉で定義し直されます
もう一つ見逃せない記述がありました。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」:5歳児後半において遊びが深まり、資質・能力が総合的に育成・発揮されている姿
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は、現行の指針で示されているもので、項目が10個あることから「10の姿」と呼ばれています。
その10の姿が、ここでは「遊びが深まった結果の姿」として定義されています。 これまで独立した到達目標のように受け取られがちだったものが、遊びの深まりの延長線上に置き直される、ということになりそうです。
指針の「見た目」も変わりそうです
中身だけでなく、書き方そのものを変える話も入っています。
「ねらい」及び「内容」については、幼児教育と小・中・高等学校等における教育との連続性・一貫性を明示するため、小・中・高等学校の学習指導要領と同様に、表形式で示すことが適当
ねらいと内容が、表の形になるということです。小学校から高校までの学習指導要領は表形式で書かれていて、それに揃えるという話です。
資料には、現行の領域「健康」を使ったイメージ例が載っていました。左に「ねらい」、右に「内容」を並べて、内容のほうには「(1) 明るく伸び伸びと行動し、充実感を味わう。」といった項目が入る形です。
ただし、幼児教育だけは例外にするという但し書きがあります。
幼児教育においては、「知識及び技能の基礎」、「思考力、判断力、表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」を分けて示すのではなく、一体的に示すことが適当
小学校以降は「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つに分けて書かれますが、幼児教育では分けずにまとめて示す、ということです。遊びの中では3つが同時に育つので、切り分けられないという趣旨だと思われます。
正直なところ、実際にどんな表になるのかは、実物を見るまで分かりません。ただ「指針を開いたときの見え方が変わる」という点は、現場にとって分かりやすい変化です。
記録と振り返りの話が入っています
現場の作業に直接効きそうなのが、この部分です。
施設類型に関わらず、全ての幼稚園・保育所・認定こども園において、指導の改善が図られるよう、乳幼児理解に基づいた評価を行うことを規定
「規定」という言葉が使われています。 そのうえで、園生活で見られる子どもの具体的な姿を記録し、振り返ることの充実が挙げられています。
記録はすでにどの園でもやっていることですが、「遊びの中の学びを見取る」という視点が明示されると、書く中身が変わってくるかもしれません。「何をして遊んでいたか」ではなく「そこで何が育っていたか」を書く、という方向です。
書類が増えるのか、書き方が変わるだけなのか。ここは実際の指針が出てみないと分かりません。
ICTの使い方に、はっきり釘が刺されています
ICTの活用に当たっては、発達に応じて、乳幼児の直接的・具体的な体験の充実を図る道具として活用することとし、乳幼児の直接的・具体的な体験を阻害する活用とならないよう、必要な留意点を示す
「阻害する活用とならないよう」とはっきり書かれています。
保育ICT推進加算の記事で書いたとおり、国は保育のICT化を進めています。ただそれは業務のICT化の話で、こちらは子どもとICTの話です。両方を並べると、国の姿勢がはっきりします。事務は効率化する。でも子どもの体験は代替しない。
園でタブレットの導入などが話題になったとき、この区別は押さえておくと話がずれずに済みそうです。
0歳児から、という視点が繰り返されます
内容の改善として挙げられている3つは、いずれも「0歳児から」で始まっています。
- 遊びの中で多様な動きを伴う体験の充実と身体感覚の育成
- 他者と関わり協同する力の育成
- 言葉を用いて考える力の基礎の育成
「0歳から18歳までの育ちや学びを見通し、連続性・一貫性を図る」という方針が背景にあります。乳児クラスの保育を、その先につながるものとして位置づけ直す動きと読めます。
外国人の子どもへの記述が入りました
現場で増えている話です。
外国人の乳幼児等の指導の充実に当たっては、日常的な関わりや言葉掛けにおいて、“日本語の力を育む視点”をもち、一人一人の実態に応じた指導の工夫を行うことを重視
障害のある子どもについても、「基礎的環境整備」の充実と「合理的配慮」の提供が確実に行われるよう規定する、とされています。資料は「基礎的環境整備の状況については各園のばらつきが大きい」とも書いていて、現状の課題を率直に認めています。
小学校との接続も、また出てきます
小1プロブレムの記事で「単発の交流で終わらせない」という話を書きましたが、今回の取りまとめ案にも接続の話が入っています。
共通の教育的視点に基づき「架け橋期のカリキュラム」を協働して作成するなどして、学びのつながりを意識した実践の改善を図る
資料は現状について、「全国的に見ると未だ十分とは言えない状況」と書いています。園と小学校が一緒にカリキュラムを作る、というところまで踏み込んでいます。
誰が議論しているのか
気になったので、委員の名簿も見てみました。「保育専門委員会」は16名で構成されています(令和8年9月1日現在)。
内訳はこうです。
| 立場 | 人数 |
|---|---|
| 大学の教員 | 10名 |
| 自治体(乳幼児教育センター所長、県のこども支援課) | 2名 |
| 専門機関(国立特別支援教育総合研究所、県立総合療育センター院長) | 2名 |
| 園(学園理事長、保育園園長) | 2名 |
現役の保育園の園長は1名です。研究者を中心とした構成と言えます。
なお、この名簿は入れ替わっています。1年前(令和7年10月)の名簿は17名で、そこには小平市立の保育園の保育士が1名入っていました。現在の名簿にその枠はありません。
ただ、名簿を眺めていて気づいたことがあります。研究者の専門分野が、取りまとめ案の項目とほぼ対応しているのです。
- 栄養科学科の教授 → 食育に関する内容
- 社会福祉学科の教授 → 家庭や地域との連携
- 国立特別支援教育総合研究所の研究員と、療育センターの院長 → 特別な配慮を必要とする乳幼児への指導
誰が委員に入るかで、何が議題になるかが決まるという構造が見えます。指針に何が書かれるかは、この段階でかなり方向づけられているということでもあります。
名簿には、秋田喜代美氏(学習院大学教授・東京大学名誉教授)や大豆生田啓友氏(玉川大学教授)も入っています。研修や書籍で名前を見たことのある方も多いのではないでしょうか。
また、この取りまとめ案は保育専門委員会だけのものではなく、文部科学省の「幼児教育ワーキンググループ」と合同でまとめられています。幼稚園教育要領との整合性を取るためです。保育所保育指針だけが単独で変わるわけではない、ということです。
なぜ変えるのか
現行の指針の課題として、こう書かれています。
育みたい資質・能力、5つの領域のねらい及び内容、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」について、それらの関係性が不明確であることや整合性が確保されていない部分があることから、質の高い実践の構想につながりにくいという実態がある
「関係性が不明確」「整合性が確保されていない」と、国が自ら認めています。
ここに出てくる「5つの領域」は、保育のねらいと内容を分けて示す枠組みで、現行の指針で使われているものです。研修で「10の姿」の話を聞いて、この5領域との関係がよく分からなかった経験のある方は多いのではないでしょうか。分かりにくかったのは、読み手のせいだけではなかったということになります。
今回はその関係性を整理し直す、というのが改定の柱の一つです。
まとめ
まだ案の段階なので、確定した話は一つもありません。ただ、議論されている方向は読み取れます。
- 「遊びの深まり」が中心の考え方になりそう
- 記録と振り返りについて、より踏み込んだ書き方になりそう
- ICTは子どもの体験を阻害しない範囲で、という線が引かれそう
- ねらいと内容が表形式になり、指針の見た目も変わりそう
- 0歳児からの連続性が意識されている
- 現行指針の分かりにくさを、国が課題として認めている
告示や実施の時期は、まだ公表されていません。決まった段階で、あらためて整理したいと思います。
いま園内研修で「10の姿」や5領域の話が出たとき、この整理し直しが進んでいることを知っておくと、少し見え方が変わるかもしれません。
この記事はいかがでしたか?
もう少し詳しく伝えたいことがあればご意見・お問い合わせからどうぞ。 いただいた内容は公開されません。