ニュース解説

人件費は地域で年90万円違います 国は差を縮める方向で検討中です

同じ資格を持って、同じ年数だけ働いていても、園がどこにあるかで国が見ている人件費は違います。

いちばん高い地域といちばん低い地域で、保育士1人あたり年90万円。

その差の元になっている「地域区分」が、令和9年4月に向けて見直される方向で動いています。8月19日にこども家庭庁の分科会があり、全国の自治体に聞いた調査の結果が出ていました。議事録も公開されています。

先に書いておきます。決まったのは方向性だけです。 率がどうなるかはまだ何も決まっていません。

90万円の差はどこから来るのか

国が私立保育所に払う委託費を計算するとき、保育士1人あたりの人件費を地域ごとに変えています。令和8年度はこうなっています。

地域区分保育士1人あたりの人件費(年額)
20/100地域548万円
16/100地域530万円
15/100地域526万円
12/100地域512万円
10/100地域503万円
6/100地域485万円
3/100地域471万円
その他地域458万円

いちばん上の20/100地域は東京都の特別区です。上から下まで90万円あります。

「その他地域」というのが分かりにくいので、補足します。これは上乗せがゼロという意味です。国は全国の市町村に一つずつ率を割り振っているわけではありません。「ここは民間の給料が高い」と判定した地域だけを名指しで一覧に載せていて、そこに名前がなければ0%になります。

判定の物差しは、公務員の地域手当と同じものです。

賃金指数93.0(10か年平均)以上の地域(人口5万人以上の市)を指定。

その地域で民間企業がいくら払っているか、という統計です。保育士が足りているかどうかは入っていません。

ただし、名前が載らなかった地域が必ず0%のままとは限りません。周りが高ければ引き上げる「補正ルール」があります(後で書きます)。

ここで大事な注意がひとつ。これは「実際に払われている給料」ではありません。 国が委託費を計算するときの積算の前提です。通知そのものが、こう断っています。

本通知で示す人件費と実際に支払われる人件費との差額のみをもって単純に給与水準の適否を判断することはできない

園がこの額どおりに払う義務はありませんし、配置基準より多く職員を雇っている園なら、1人あたりの水準は当然下がります。

それでも、元手が違えば払える上限は変わります。園の収入がどう決まるかの全体像は加算の記事にまとめました。

きっかけは、公務員の手当です

なぜ今この話が出ているのか。保育の都合ではありません。

公定価格の地域区分は、もともと公務員の「地域手当」に合わせて作られています。

国家公務員及び地方公務員の地域手当の支給割合に係る地域区分

に準拠する、と決められている。だから公務員側が変われば、保育も動きます。

そして令和6年8月8日、人事院勧告でこう示されました。

地域手当の級地区分の設定について、現在市町村ごととしているものを都道府県を基本とするよう見直すとともに、1級地 20%~7級地 3%の7区分であったものを1級地 20%~5級地 4%の5区分に見直す。

市町村ごとから、都道府県ごとへ。7段階から5段階へ。ざっくりした区分にする、という変更です。

一度、見送られています

この話、実は令和7年4月にやるはずでした。それが止まっています。

令和7年4月からの見直しは実施せず、引き続き見直し方法について丁寧に議論を進めていく。

理由は、都道府県単位にすると新しい歪みが出るからです。

都道府県単位に広域化することで県内の隣接する市町村との不均衡の解消が図られる一方で、一部では県外の隣接する市町村との差が現行よりも拡大するという状況が見られる。

県の中はそろうけれど、県境で開く。今回の調査でも、ある市町村がこう書いています。

首都圏においては県境をまたいで複数施設を運営する法人も多く、地域手当区分によって生じる同一法人内での賃金格差について、法人が自らの負担で解消を図る必要が生じる懸念がある

同じ法人の系列園なのに、県が違うだけで元手が変わる。差額は法人が自腹で埋めることになる、という話です。

令和6年10月8日の参議院本会議でも質問が出て、当時の総理が「引き続き丁寧に議論を進めてまいります」と答えています。そのまま1年以上、宙に浮いていた話です。

そこで全国の自治体に聞いた

令和8年5月、こども家庭庁が全都道府県・全市区町村に意見を聞きました。その結果が今回の資料です。

まず市町村1,741のうち、約6割(1,015)が「意見なし」でした。

これだけ見ると、現場は関心がないように読めます。ただ、率が下がる自治体だけを取り出すと景色が変わります。

区分が上がる
(457市町村)
変わらない
(1,093市町村)
区分が下がる
(191市町村)
現行のままがいい14.2%16.6%31.9%
意見なし42.9%71.6%18.8%

人事院勧告をそのまま当てはめると、191の市町村で率が下がります。 そこでは「意見なし」が2割を切り、3割が「現行のままにしてほしい」と答えています。

分科会では、こども家庭庁の局長が「意見なし」の多さについてこう見立てを述べていました。

大くくり化したことで、特に意見がないこと が増えた という のもあるのではないか

都道府県単位になるなら自分の市だけ心配しても仕方ない、という受け止めもあるだろう、という話です。

下がる側の声

自由記述に、具体的な数字が出てきます。

本市は15%地域から12%地域に率が減少するため、令和8年度と令和9年度で公定価格が大きく下がることになると施設の運営に多大な影響を及ぼす

15%から12%だと、保育士1人あたり526万円が512万円。14万円の差です。

もっと大きく動くところもあります。

現行15%の地域区分であるが改正した場合4%と大幅に下がることで多大な影響を受ける

15%から4%(新しい5区分の最下位)まで落ちる自治体がある、という報告です。

そして共通して出てくるのが、この理屈でした。

地域手当の率が減少した地域においても、施設運営に要する人件費水準は直ちに低下するものではなく

区分が下がっても、すでに雇っている職員の給料は下げられません。園の収入だけが減る、ということになります。

「財政中立」という前提

こども家庭庁は自治体に意見を聞くとき、ある条件を先に示していました。ここがこの話の肝です。

制度の見直しは基本的には財政中立で行うもの

財政中立というのは、全体の総額を増やさないという意味です。つまりどこかを上げるなら、どこかを下げて帳尻を合わせる。

ある市町村の回答が、そこを正面から書いています。

地域区分を引き上げる場合、その所要額を他地域の引き下げ等により確保する

なお都道府県の回答には、財政中立を考慮した意見は「見られなかった」と資料に書かれています。自分のところを下げてくれと言う自治体はいません。当たり前ではあります。

決まったのは、方向性だけです

では、今回の分科会で何が決まったのか。

令和6年人事院勧告における地域手当の率に準拠しつつ、新たな補正ルール を設ける方向性は維持しつつ、引き続き、見直し内容の検討を進める。

そして、こう添えられています。

現状の地域区分より、全国的な地域区分の差が縮小する方向で検討することを基本方針とする。

決まったのは「差が縮む」という方向までです。差が縮むというのは、下が上がる場合もあれば、上が下がる場合もあります。どちらになるかは書かれていません。

検討の観点として、自治体の意見から2つが挙げられています。

  • 地域区分の見直しにより施設への給付費が下がることがないようにすること
  • 隣接する自治体ないし通勤可能な自治体間での地域区分の差に留意すること

「差を縮める」「どこの給付費も下げない」「総額は増やさない」。この3つを同時に満たすのは、算数としてかなり無理があります。資料も「見直しに係る財源の確保にも留意しつつ」と書き添えていて、財源の話が残っていることは国も認めています。

決まる時期は、資料に書かれていません。分科会で課長が「予算編成過程でしっかりと自治体の皆さんとも調整をしながら進めていきたい」と答えているので、方向が見えるのは年末になりそうです。

「補正ルール」というのは何か

地域手当がゼロの市町村を、周りに合わせて引き上げる仕組みです。平成27年度から順に足されてきました。令和6年度に追加されたときは、こう動いています。

  • 千葉県栄町 … 6% → 15%
  • 東京都東久留米市 … 12% → 15%
  • 福岡県糸島市 … 6% → 10%

園の事務に「うちは補正で上がっている」と言われたことがあるなら、これのことです。

自治体からは、制度そのものへの疑問も出ています

自由記述は、かなり率直でした。

地域区分による公定価格の上乗せは、他業種と比較して低い賃金水準にある保育士において、賃金格差による地方から都市部、さらに首都圏への人材流出を助長する要因となっている

地域区分そのものが人を都市に流している、という指摘です。この都道府県は「一旦、地域区分を撤廃し」て人件費の底上げを優先してほしい、と続けています。

逆向きの提案もありました。公立学校の教員にあるへき地手当を、保育にも入れてはどうかという市町村の意見です。

地方の田舎は不便だけど給与が高いから働く、くらいの「へき地手当」が必要

分科会でも、委員から配分より水準が先だという発言がありました。

公定価格の地域区分の検討の前に、やはり保育士の賃金そのものを引き上げるということが重要である

地域でどう配分するかの前に、配る総額の話がある。現場に近い人ほど、この順番で考えているように読めます。

自分の園に関係するところ

ここまでは国の話です。自分に関係するのは、次の2つだと思います。

自分の園が何%地域なのかを知っておく

これは調べられます。園の事務や園長は把握しています。公定価格の単価表は地域区分ごとに分かれていて、それを選ばないと給付費が計算できないからです。「うちは何%地域ですか」と聞けば答えが返ってきます。

決まるのは施設の所在地です。自分が住んでいる市町村ではありません。

市町村が独自にやっている上乗せがある

同じ調査で、市町村の自前の事業についても聞いています。令和7年度に何らかの地方単独事業をやっていたのは874市町村、全体の50.2%でした。半分です。

内訳の一部を挙げると、こうなっています。

事業の中身実施した市町村
賃金の改善・上乗せ(処遇改善等加算の上乗せ、ボーナスの補助など)243(14.0%)
勤続の節目の年次に一時金を交付など196(11.3%)
保育所等に就職した場合に一時金を出すなど186(10.7%)
家賃補助・宿舎借り上げ・引越代など173(9.9%)
離職した保育士の復職の支援76(4.4%)

市町村が自分の財布でやっているものなので、隣の市にあって自分の市にない、ということが普通に起こります。

そして、申請しないと出ないものが多い。 勤続の一時金や就職の一時金は、園が案内してくれなければ気づかないまま終わります。宿舎借り上げ支援については別の記事に書きました。

明日、確かめられること

  • 自分の園が何%地域か … 園長か事務に聞けば分かります。単価表に必ず書いてあります
  • 市町村の独自の補助があるか … 「○○市 保育士 補助」で検索すると出てきます。園ではなく自治体のページを見てください
  • 令和9年4月の見直し … 今の時点で心配しても動きようがありません。決まるのは早くて年末です

地域区分は、自分ではどうにもならない条件です。園ごと引っ越すわけにもいきません。

ただ、元手が地域で違うことを知らずに「うちの園は給料が安い」と思っているのと、知っているのとでは、園長に聞く質問が変わります。 「うちは何%地域で、市の上乗せは何があるんですか」と聞けるようになる。それだけでも、聞き方としてはずいぶん違います。

この見直しがどう着地するかは、年末の予算編成を見ないと分かりません。決まったら、また書きます。

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