「すくわくプログラム」って何? 探究活動に150万円が出ています
東京都が、園の探究活動に1園あたり150万円を出しています。補助率は10分の10で、園の持ち出しはゼロ。新規で入れるのは今年度が最後です。中身を読んだら、要件が9項目にわたって具体的に決められていました。そして都が業者に名指しで釘を刺しているところがあります。
東京都の園で働いている方は、聞いたことがあるかもしれません。「とうきょう すくわくプログラム」です。
調べてみたら、1園あたり150万円が出る事業でした。しかも補助率は10分の10。園の持ち出しはゼロです。
対象は東京都内の幼稚園・保育所などです。 他の道府県の方は、後半の「東京都以外の人が持ち帰れること」から読んでもらっても大丈夫です。実践のチェックリストと、次の保育指針との重なりの話をそこにまとめてあります。
まず、お金の話
| 補助上限 | 1園あたり150万円(令和8年度) |
| 補助率 | 10分の10(都が全額。園の負担なし) |
| 対象経費 | 16項目(下に掲載) |
| 期間 | 採択されれば6年間 |
| 対象施設 | 幼稚園、認可保育所、認定こども園、認証保育所、小規模保育、家庭的保育、事業所内保育、認可外(企業主導型など) |
| 対象児童 | 上記施設に通う0歳児から6歳児 |
施設の種類をまたいでいるのが特徴です。幼稚園も保育所も認可外も、同じ枠で入れます。
対象経費は、交付要綱にこう並んでいます。
給料手当(非常勤教職員に対するもの)、報償費、旅費、消耗品費、燃料費、会議費、印刷製本費、備品購入費、通信運搬費、広告料、手数料、雑役務費、委託料、保険料、使用料及び賃借料、工事費
かなり広いです。 旅費が入っているので子どもを連れて出かける費用も、備品購入費で絵本やおもちゃ、家具も対象になります。工事費まで入っています。 探究活動に紐づくものであれば、たいてい当てはまりそうです。
そしてひとつ、期限があります。
※補助の新規採択は令和8年度が最終
新しく入れるのは今年度が最後、と概要資料に書かれています。
「探究活動」とは、何をすることか
「探究活動をやれば150万円」と聞くと、何をすればいいのか分かりません。ここが具体的でした。
補助を受けるには、探究活動を月単位で複数月にわたって継続的に実践する必要があります。そのうえで、実施要綱に9項目が並んでいます。
- 各施設の環境や強みを活かしながら、乳幼児の興味・関心に応じたテーマを設定する
- テーマに関する興味・関心を探るため、問い掛けやアプローチを行う
- 興味・関心を広げたり深めたりできるような素材や道具を準備し、環境を構成する
- グループ単位での活動等により、乳幼児同士の対話、関わりを促す
- 活動中の言葉、表情、ジェスチャー等の表現に着目し、メモ・写真・映像等で記録する
- 一人ひとりが主体的に活動できるよう配慮した声掛けを行う
- 記録をもとに、関心や発見、表現を振り返る
- 教諭・保育者同士や保護者等に、探究活動の内容を共有する
- 次の活動に向け、新たな問いや環境の構成を考える
都はこの9項目を、資料の図で5つのプロセスにまとめています。①テーマを決める → ②問いを考える → ③環境をデザインする → ④探究活動を実践し、記録する → ⑤振り返る・共有する、の5つです。
テーマの例として挙がっているのは「光」「音」「植物」など。園が自分で決めます。
読んでみると、特別なことは書かれていません。 子どもの興味を見つけて、環境を用意して、様子を記録して、振り返って、次につなげる。日々やっていることに近いと思います。
そして「探究」は、新しい言葉ではありません
5領域の「環境」のねらいに、もともとこう書かれています。
環境:周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもって関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う
国の資料でも、幼児教育の基本はこう説明されています。
幼児は、教育的な意図をもって構成された環境の下で、好奇心や探究心をもって遊びを展開する中で、様々な能力や態度を身に付けていく
つまりすくわくは、新しい教育法が入ってきた話ではなく、もともと指針や要領にあったものに、予算と手続きがついたものと読めます。
いま保育所保育指針の改定が審議されていて、そこでは「遊びの深まり」が中心概念になろうとしています。方向は同じです。東京都が先に事業にした、という位置づけになります。
誰が作っているのか
東京都が単独で作ったものではありません。
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(CEDEP)との協定の下
CEDEP側は「東京プロジェクト」という名前で動いていて、メンバーが公開されています。中心にいるのはこの2人です。
- 秋田喜代美(学習院大学教授・東京大学名誉教授)
- 浅井幸子(東京大学大学院教育学研究科教授)
秋田氏は、保育所保育指針の改定を審議したこども家庭審議会 保育専門委員会の委員長でもありました(令和7年10月時点の名簿による)。国の指針を作る場と、東京都の事業の両方に、同じ人が関わっていることになります。
研究者だけのチームではありません
メンバーは27名。内訳を数えると、こうなります。
| 区分 | 人数 |
|---|---|
| 大学教員(教授・准教授・助教・講師) | 9 |
| アーティスト・アトリエリスタ・デザイナー | 6 |
| 大学院生(修士・博士課程) | 6 |
| CEDEP所属(教授・特任助教・特任研究員) | 4 |
| こども園・教育事業の実践側 | 2 |
アーティストが6名入っています。「アーティスト」「デザイナー・アトリエリスタ」「アトリエリスタ・みりおらーれ代表」「画家・子どもアート実践家」「アートマネージャー・コーディネーター」といった肩書です。都の広報記事にも、江東区の保育園での活動に「CEDEPから派遣された協力アーティスト」が入っている様子が写真つきで載っていました。
なお、肩書が「保育士」のメンバーはいません。 ただし現場が遠いわけでもなく、こども園のチームディレクターが1名入っていますし、博士課程のメンバーの1人は「保育士として働いていることもあり」と自己紹介しています。とはいえこのチームは事業を支援する側で、日々の保育をしている園は「参加園」として別にいる、という建て付けです。
なぜアーティストが要るのか
理由は、使う道具を見ると分かります。CEDEPは「機材・素材の紹介」というページで、探究活動に使うものを公開しています。
機材は、OHP、マイクロスコープ、トレース台、フレンネルレンズ、プロジェクター、スタンドルーペ、スポイトなど。素材は、オーロラ紙、アクリル積み木、アルミ皿など。
説明が具体的です。たとえばアルミ皿について。
一般的なプラスチック製の白いパレットだと、洗っても絵の具が落ちきらないことがよくありますが、こちらは綺麗に汚れが落ちるので、子どもたちは自らの混色に集中できます
カメラについては、こうです。
カメラは大人が子どもの様子を撮影するためだけのものではありません。子どもたち自身に手渡すことで、子どもたちは自身の見つめる世界を切り取り、私たちに共有してくれます。
「OHPで何ができるか」「どの紙が光を通すか」は、保育士の専門ではありません。 補助要件の3番目が「素材や道具を準備し、環境を構成する」なので、そこを担当する人として入っている、と読めます。
150万円の備品購入費で何を買うのか、という話でもあります。
もとは渋谷の5年間でした
経緯もはっきりしています。
- 2018年 … 渋谷区と東京大学教育学研究科が協定を結び、渋谷区立渋谷保育園で「渋谷プロジェクト」が始まる
- 2023年度 … 都の事業として開始。江東区・渋谷区・福生市・港区の4自治体14施設でパイロット
- 2024年度 … 都内全域へ
渋谷での実践が先にあって、それが都の事業になったという順番です。プログラム自体は令和6年3月に取りまとめられ、その後も令和7年3月・令和8年3月とバージョンアップ版が出ています。
なお、いま実際に何園が取り組んでいるかは、都の公開資料からは確認できませんでした。
都は、このプログラムが応援するものを「非認知能力」と呼んでいて、こう定義しています。
「自尊心」や「意欲」などの自己にかかわる心の力と、「共感」や「思いやり」など社会性にかかわる心の力
この「非認知能力」という言葉については、国はかなり慎重な使い方をしています。 そこは長くなるので別の記事に書きました。
都が、業者に名指しで釘を刺しています
資料に、こう書かれています。
一部の事業者等が、教材やプログラム等を、「とうきょう すくわくプログラム」の推奨がある等として、広告、販売しているケースがあるようですが、東京都が特定の教材やプログラム等を推奨することはしておりません。
「すくわく推奨」を名乗る商売が、実際に出ているわけです。都はそれを公式資料で否定しています。
外部委託についても、線が引かれています。
本事業の実施に際しては、保育者が探究活動の5つのプロセスのすべてに主体的に関わり、保育者自身の知見を深めることが必要です。このため、活動へのサポートの位置づけで部分的に外部委託等により実施することは可能ですが、すべてを外部委託等で実施し、保育者が関わらない場合は、補助対象外となります。
部分的に頼むのは可。丸投げは補助対象外。 線がどこに引かれているかが、はっきり書かれています。
実施計画書の書き方にも、同じ思想が出ています。テーマの留意事項に、こうあります。
教育法や商品等の固有名詞は記載しないでください
同じ線を、国も引いています
これは東京都に限った話ではありません。こども誰でも通園制度の手引にも、ほぼ同じことが書かれています。
リトミック教室や英語教室、スイミングスクールなどの習い事に類する内容、形態によるものをこども誰でも通園制度に当てはめて提供するなど、早期教育の場の形とすることは適切ではありません
所管も制度も違うのに、同じ線が引かれています。 保育に商品やメソッドが入り込むことへの警戒です。
制度にお金がつけば、それに乗る商売が出てきます。都が「ケースがあるようです」とわざわざ書いているのは、実際に起きているからだと読めます。
東京都以外の人が持ち帰れること
この事業自体は東京都のものですが、使える部分があります。
- 9項目がそのまま実践のチェックリストになります。 補助金と関係なく、「テーマを決めて、環境を作って、記録して、振り返る」は、どこの園でもできます
- すくわくポータルで、他園の実践が見られます。 ログイン不要のページに、テーマ別(色・音・自然など)の事例が公開されています
- 「◯◯を導入すれば探究活動になります」という営業には気をつける。 都が明確に否定しています
そしてもう一つ、先に見ておく価値があります
この事業の中心にいる秋田氏が、保育所保育指針の改定を審議した委員会の委員長でもある、と上に書きました。だとすると、いま東京都でやっていることは、次の指針の方向を先に見ているのかもしれません。
審議の到達点である「取りまとめ案」を実際に数えてみると、こうです。
| 言葉 | 取りまとめ案(23ページ)での回数 |
|---|---|
| 遊びの深まり | 27回 |
| 対話 | 25回 |
| 記録 | 19回 |
| 振り返り | 14回 |
「テーマを決めて、環境を作って、記録して、振り返る」。 すくわくが園に示しているやり方と、方向が重なっています。
ただし、そのまま来ると思わないほうがよさそうです。 同じ取りまとめ案に「非認知能力」は一度も出てきません(この言葉については別の記事に書きました)。「探究」も2回だけで、しかも子どもではなく保育者が主語です。
実践を探究的に構想し、環境の構成・再構成や援助を行う
子どもが探究する、ではなく、保育者が探究的に考える。 すくわくの言葉づかいがそのまま国の指針になるわけではありません。
なので、東京都以外の方にとってのこの事業は、制度の先取りではなく、やり方の先行事例という見方が近いと思います。記録と振り返りを回す園が都内に増えていて、その事例がポータルで公開されている。次の指針がその方向へ動くなら、先に見ておいて損はない、というくらいの距離感です。
最後に
調べる前は「東京都が新しい教育法を始めた」という話だと思っていました。違いました。
もともと5領域にあった「探究心」に予算をつけて、手順を9項目に書き下して、記録と公表を義務づけた。やっていることを見える形にした事業です。
そして、丸投げを認めず、商品の名前を書かせず、業者の便乗を公式に否定している。 そこまで含めて読むと、この事業が何を守ろうとしているのかが分かる気がします。
この記事はいかがでしたか?
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