制度のきほん

園の声を「騒音」と定めた法律はありません 裁判で効いたのは園の説明でした

新しい保育園の計画が、近所の反対で止まった。外で遊ぶと苦情が来るので、園庭に出る時間を短くしている。そんな話を聞いたことがあるかもしれません。

保育園の子どもの声は、法律で「騒音」とされているのでしょうか。調べると、国の法律に、子どもの声を騒音と定めたものはありません。 一方で、近所の人が我慢しなければならないと法律で決まっているわけでもありません。どちらの思い込みとも違う、いまの仕組みを整理しました。

ひとまず、この表だけで足ります

子どもの声はどう扱われているか
国の騒音規制法対象は工場・工事・自動車。人の声や保育所は入っていない
国の環境基準(住宅地は昼55dB)行政の目標で、個別の規制ではない
東京都の条例以前は数値の基準がかかっていた。2015年に外した
裁判(神戸地裁 2017年)住民の訴えは退けた。ただし「保育園は公益だから」が理由ではない

国の法律に、子どもの声の規定はない

国の騒音規制法が規制しているのは、工場や事業場の騒音、建設工事の騒音、自動車の騒音です。人の声や保育所は対象に入っていません。

2015年、国会議員の質問主意書に、政府はこう答えています。

御指摘の子どもが発する声等を騒音として明確に定義している法律は存在しない。

国には「騒音に係る環境基準」もあります。住宅地なら昼55dB、夜45dBです。ただ環境省は、この基準を「行政上の政策目標」と説明しています。守らなければ罰せられる規制ではなく、行政がめざす目安です。

数値で規制していたのは、東京都の条例

東京都は、条例で「日常生活等」の騒音にも数値の基準を設けています。たとえば住居地域では昼50dBで、音を出す敷地と隣の敷地の境界線で測ります。2015年までは、この基準が保育所の子どもの声にもそのままかかっていました。

2015年の条例改正で、就学前の子どもと保育者などが出す声、足音、遊具の音などは、この数値の基準から外れました。ただし、都の説明によると、外れたのは数値だけです。「人の健康又は生活環境に障害を及ぼすおそれがない程度を超えてはならない」という決まりは残っています。

子どもの声を数値で規制していた自治体は、ほかには多くありません。行政法・環境法が専門の慶應義塾大学の戸部真澄氏は論文で、条例で子どもの声の騒音規制を「実際にそれを定めている例は稀である」と書いています。

裁判で決め手になったもの

神戸市で、保育園の隣に住む人が、園を運営する法人に慰謝料と防音設備を求めた裁判があります。神戸地裁は2017年2月、訴えを退けました。

境界線で測った音は、平均76dBで、神戸市の基準を上回っていました。それでも判決は、原告の家での音を一日の昼間の平均に引き直すと54.2dBで、国の環境基準55dBを上回らないとしました。

ここで大事なのは、判決が「保育園は公益施設だから我慢すべき」とは言っていないことです。

本件保育園に通う園児を持たない原告を含む近隣住民にとってみれば、直接その恩恵を享受しているものではなく(中略)本件保育園が一般的に有する公益性・公共性を殊更重視して、受忍限度の程度を緩やかに設定することはできない

判決が評価したのは、園庭で遊ぶ時間が1日約3時間に限られていたこと、そして法人の対策です。法人は開園の前に1年ほどかけて近隣への説明会を開き、園庭の向きを変える設計にし、北側に高さ3mの防音壁を建て、近所の数軒の窓を法人の負担で二重サッシにしていました。

判決は同時に、一日の大半を家で過ごす原告にとって「その影響は決して小さくないものといい得る」とも書いています。近所の人の暮らしも、軽く扱われてはいません。

研究者の論文によると、保育所などの子どもの声をめぐる裁判で、住民の請求を認めた判決は見当たらないとされています。

子どもから見ると

保育所保育指針は、3歳以上の健康の領域に「進んで戸外で遊ぶ」と書き、子どもの興味や関心が戸外にも向くようにすることを挙げています。

近所への配慮で窓を閉め切り、外遊びを少人数に分けて時間を区切る園がある、という話が新聞で報じられ、研究者の論文でも紹介されています。どれくらいの園がそうしているかを数字で示した調査は、見つかりませんでした。

音をめぐる話し合いは大人どうしで行われますが、遊ぶ時間が短くなるのは子どもです。外遊びを削るのは、最後の手段であってほしいと思います。

国の支援は防音壁と調整役

国は、近隣に配慮した防音壁の設置を補助しています。保育所などの整備の交付金に「防音壁整備事業」があり、1施設あたりの基準額は4,779,000円(2分の1相当)です。2016年の待機児童対策では、保育園をつくるときに地域住民との合意づくりを担う「地域連携コーディネーター」の配置も、補助の対象に入りました。

一方で、近隣との調整の進め方を示した国の手引きは、見つかりませんでした。

数値の基準をつくるべきか

戸部氏は、東京都の改正に反対の立場です。

法律や条例に、子どもの声の性質に対応した規制基準を設定し、継続的に、その遵守義務を子ども関連施設に課すことを提言する。

基準があれば、園も近所の人も、どこまでなら大丈夫かが分かります。筋の通った意見です。

それでも、神戸の判決を読むと、先にやるべきことがあると考えます。決め手になったのは、開園前の説明、園庭の配置、防音壁、窓の対策でした。これらは、園が建つ前の設計と説明でしかできません。 建ってから苦情が来ると、残る手段は子どもの外遊びを減らすことになりやすい。基準をつくるかどうかの前に、計画の段階で、法人と自治体が近隣と話し、音を減らす設計にすることが要ります。

室内の音の響きについては、保育室の音環境の記事に書きました。保育室に吸音材があると、窓を閉めたときの部屋の騒がしさも減ります。

明日、確かめられること

  1. 自分の園で、近所への配慮から外遊びの時間や場所を決めているか。決めているなら、それが誰の判断で、いつから続いているかを確かめる
  2. 苦情を受けたとき、担任が一人で受け止めていないか。園長・法人に上げる流れがあるかを確かめる
  3. 自分の自治体に、保育所の開設時に地域との調整を担う人(地域連携コーディネーターなど)がいるかを調べる
  4. 園の改修や新築があるなら、防音壁の補助(市町村が計画をつくって申請する国の交付金)を使えるか、自治体に確かめる。室内の吸音はこの補助の対象外なので、計画に入れられるか法人に聞いてみる

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