「区から月5万円」は誰に届くのか 自治体の支援は要綱で届き方が違います
「月額最大5万円をお給料に加算」。自治体の保育士支援には、本人の口座に直接振り込まれるものと、園に入ってから配られるものがあります。園を通るものでも、本人に払うところまで要綱で決めている自治体と、配り方を施設に任せている自治体があります。東京都と6つの市区の要綱を読み比べました。
「区独自の補助(1万円相当)と東京都キャリアアップ補助(4万円相当)を合わせて 月額最大5万円相当 をお給料に加算しています」。
江戸川区の保育士向けページには、こう書かれています。その下に、小さく注記があります。
(注)支給額や支給方法は、保育事業者により異なります。
自治体の保育士支援は、お金がまず誰に渡るのかで、届き方がまったく違います。本人の口座に直接振り込まれるものもあれば、園に入ってから配られるものもあります。園を通るものでも、本人に払うところまで決めている自治体と、配り方を施設に任せている自治体があります。
東京都と、6つの市区の要綱を読み比べました。
ひとまず、この表だけで足ります
| 届き方 | 例 | 本人に届く額 |
|---|---|---|
| 本人の口座に直接 | 大田区の応援手当、横浜市の就労奨励金、さいたま市の奨学金返済支援 | 決まった額がそのまま |
| 申請は園を通るが、受け取りは本人 | 江戸川区の勤続報奨金、江東区の勤続褒賞 | 決まった額がそのまま |
| 園に入り、本人に払うことが要綱で決まっている | 千葉市の給与改善事業 | 上限の範囲で、要綱どおりに |
| 園に入り、誰にいくら配るかは施設が決める | 東京都のキャリアアップ補助、江戸川区の区独自の上乗せ | 施設による |
以下は、それぞれの根拠です。
本人の口座に直接振り込まれるもの
いちばん分かりやすいのは、自治体が本人に直接払う形です。
大田区の保育士応援手当は、通算の経験年数が5年未満の常勤保育士に、最大で年12万円(前期6万円・後期6万円)を払う制度です。区のページにはこうあります。
各保育士が直接ご申請ください
振込先は「申請時に指定された申請者本人名義の口座」です。区内の同じ施設で経験10年・15年…40年の節目を迎えた人には、1回10万円の一時金もあります。
横浜市の「潜在保育士等への就労奨励金」は、かながわ保育士・保育所支援センターを通じて市内の私立園に採用された人に、1人1回5万円を払うものです。要綱では、本人が申請し、本人の指定する口座に振り込むことになっています。要件の中に、こういう一文があります。
当該保育・教育施設への就職にあたり、有料職業紹介事業者による採用支援を受けていないこと
紹介会社を通した採用は対象外です。紹介手数料の記事で見た、年収の27.2%という手数料の話とは逆向きの設計になっています。
さいたま市の奨学金返済支援も、ページに「申請は、保育士本人が直接市に対して行います」とあります。要綱の額は年18万円で、期間は5年です。
本人申請の制度は、申請しなければ受け取れません。 横浜市の奨励金は、採用日から6か月後の月末が申請期限です。
申請は園を通るが、本人が受け取るもの
江戸川区の勤続報奨金(10万円)は、申請は法人が本人の申請書をとりまとめて出しますが、支払いは要綱でこう決まっています。
区長は、前条の規定に基づく支給決定の通知を受けた者(以下「支給決定者」という。)が指定する口座に、報奨金を支給するものとする。
区のページの見出しは「5年ごとの節目に10万円」ですが、注記にあるとおり「1人1回限りの支給」です。
江東区の勤続褒賞(勤続5年で商品券2万円分、10年で5万円分)も、申請は事業者ですが、要綱では本人あてに書留で送ることになっています。
園に入り、本人に払うことが決まっているもの
園を通るからといって、配り方が園まかせとは限りません。千葉市の給与改善事業(1人あたり月額4万円が上限)の要綱は、園の側の義務をこう書いています。
社会福祉法人等は、次の各号により、給与改善を行わなければならない。
(1)給与改善を行う額及び内容等を定める書類を整備し、職員に予め周知すること。
(2)月額の給与(本俸又は手当)を改善し、毎月職員へ支給すること。なお、支給する額は、補助対象経費から社会福祉法人等が負担する法定福利費を控除した額を下回ってはならない。
事前に知らせること、毎月払うこと、補助から法定福利費を引いた額を下回らないこと。ここまで書いてあれば、本人に届く形はかなり決まります。
世田谷区(認証保育所の職員が対象)は、園が職員に払った賃金改善の額を、1人あたり月額1万円を上限に補助する仕組みです。チラシには「施設は、本制度を活用し、助成金相当額を職員の皆さまへ賃金として支給します」とあります。ただ同時に「支給方法や金額は施設により異なる場合があります」とも書かれていて、払われなかったときの区の相談窓口も載っています。
園に入り、配り方は施設が決めるもの
冒頭の江戸川区の「月額最大5万円」は、ここに入ります。
区の上乗せの1万円は、要綱上、正規職員1人あたり月1万円として園への額が計算されます。けれど、誰に配るかについてはこう書かれています。
賃金改善を実施する職員の範囲については、各補助対象施設の実情に応じて決定するものとする。
区のチラシにも、はっきり書いてあります。
※支給額は勤務成績・経験年数などをもとに園が決定
もう一方の「東京都キャリアアップ補助(4万円相当)」は、もっと違う形をしています。都の「キャリアアップ補助金Ⅰ」の額は、職員の人数ではなく、在籍している子どもの人数で決まります。 都の説明資料の単価表には「入所児童1人あたり月額」と書かれています。(このほかに、職員の数をもとに計算する「補助金Ⅱ」があります。)
使い道のルールは、園がどこから受け取るかで変わります。社会福祉法人などが都から直接受け取る場合、要綱はこうです。
ただし、第4で算定した交付額の2分の1以上の額は、上記の人件費のうち別表1の1に定める賃金改善に要した経費とする。
説明資料はこれを「半分以上を賃金改善に充てていただく必要がありますが、残りの部分については、施設に勤務する職員の人件費に充てていただくことが可能」と説明しています。社会福祉法人以外が区市町村を通して受け取る場合は「全額を職員の賃金改善に充てていただく必要があります」。
どちらの場合も、誰にいくら配るかを決めるのは施設です。都の要綱にも説明資料にも、全員に1人4万円を払うという書き方は見当たりませんでした。
園が悪いという話ではありません
配り方を施設に任せる作りには、理由もあります。経験や役割に応じて差をつけることは、国の処遇改善等加算でも、合理的な理由があれば認められています。
ただ、自治体のページの見出しだけを見ると「この区で働けば月5万円」と読めてしまいます。要綱の書き方は、「園に入る額」と「あなたに届く額」を分けています。 その差を知っていれば、聞くべきことが分かります。
こうした支援は、もともと保育士に長く働いてもらうためのものです。江戸川区の報奨金は「継続勤務」に、江東区の褒賞も勤続年数に応じて出ます。保育士が辞めずに続けられることは、子どもにとっては、慣れた先生が明日もそこにいる、ということでもあります。
明日、確かめられること
- 自分の自治体の保育士支援の名前を調べる。 「〇〇区 保育士 手当」などで、区市町村のページが出てきます
- 本人が申請する制度があるか確かめる。 申請しないと受け取れず、期限があるものもあります
- 園を通る制度なら、「自分にいくら、どの給与項目で入っているか」を聞く。 支給額は園が決めることになっている制度が多いので、聞くのは遠慮ではありません
- 支払いに疑問があるとき、相談窓口を置いている自治体もあります。 世田谷区は、認証保育所の職員向けのページに窓口の電話番号を載せています
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