保育室は地下鉄の車内くらいの音 響きは部屋で決まります
保育室の音は、活動中の平均で70〜90dB。地下鉄の車内やゲームセンターの中と同じくらいです。保育所保育指針は「音などの環境を常に適切な状態に保持」と書いていますが、国の数値の基準はなく、吸音を考えた園舎は1割程度だと日本建築学会は国に伝えています。うるさいのは子どものせいでも先生のせいでもなく、部屋の響きの問題でもあります。研究で効果が確かめられた対策と、明日からできることをまとめました。
「静かにして」と、今日、何回言ったでしょうか。
言うたびに声は大きくなり、部屋はかえってうるさくなる。そんな悪循環に覚えのある人は多いと思います。けれど、保育室のうるささは、子どもや先生だけのせいではありません。部屋の響き方で、音の大きさは変わります。 研究と国の資料から、どこまで分かっているかを整理しました。
ひとまず、この表だけで足ります
環境省が公開している「騒音の目安」の図と、保育室を測った研究の値を並べました。目安の位置は図から読み取ったおおよその値です。
| dB | 身近な場所 | 保育室 |
|---|---|---|
| 90 | パチンコ店の中 | 大きな音が出た瞬間(最大90〜100) |
| 80 | 航空機の中 | |
| 75前後 | 地下鉄・在来線の車内 | 活動中の平均(70〜90) |
| 60 | 銀行の窓口のまわり | |
| 50 | 書店の中 | 午睡の時間(50前後) |
| 40 | 図書館の中 |
保育室の値は、埼玉大学教育学部で保育室の音環境を研究してきた志村洋子氏らが、公立・私立の幼稚園と保育所を測った結果です。活動中は、幹線道路のそばから地下鉄の車内、ときにパチンコ店の中くらいの音が続いていることになります。
ちなみに厚生労働省は、平均で85dB以上になりやすい工場などの作業場について、騒音を測って対策をとるようガイドラインで示しています。保育所はその対象ではありませんが、保育室の値はその線にかかる範囲です。
国の数値の基準はない
保育所保育指針には、音について一文あります。
施設の温度、湿度、換気、採光、音などの環境を常に適切な状態に保持するとともに、施設内外の設備及び用具等の衛生管理に努めること。
指針解説も「音や声の大きさなどにも配慮して」と書いています。ただ、何dBまでならよいかという数値は、指針にも、保育所の設備運営基準にもありません。
幼稚園と幼保連携型認定こども園には、学校の「学校環境衛生基準」がかかり、教室は窓を閉めて50dB以下が望ましいとされています。ただしこれは、子どもがいない状態で測る値です。活動中のにぎやかさや部屋の響きの基準ではありません。
2025年11月、日本建築学会はこども家庭庁長官あてに要望書を出し、こう書いています。
私どもの実地調査の結果では、吸音が考慮されている園舎は1割程度にとどまります。
要望書は、国の基準や数値目標がないために吸音の普及が進んでいないこと、設計の段階で吸音材が予算の都合で削られる例が少なくないことも挙げています。そのうえで、認可保育所などの設置指針で吸音仕上げに触れること、吸音改修への助成などを求めています。
国に基準がなくても、自治体が求めている例はあります。横浜市は、保育所と小規模保育事業所の「整備の手引き」(2026年4月版)で、「日本建築学会による騒音基準の推奨値」に収まるよう「遮音や吸音に配慮した計画としてください」と書いています。
先生の声と、子どもの聞こえ
保育者82人に聞いた調査では、70人(85.4%)が声の不調を自覚していました。「声を出すのがつらい」と感じる人が気にしている音のうち、83.3%はほかのクラスの音でした。同じ調査で、保育者がしている対策の73.8%は、話し方の工夫など自分の努力だけでした。
建築学会の要望書によると、保育者2,000人以上へのアンケートで、吸音のない園では「喉を痛める頻度が週1回以上」という人が約1.4倍でした。響く部屋で3・4歳児の聞き取りが大きく落ちるという研究も、要望書は紹介しています。
子どもの側から見ると、響く部屋では、先生の言葉も友だちの声も聞き取りにくくなります。聞こえないから近くの子に大きな声で話しかけ、まわりもさらに声を張る。うるさくなっているのは、子どもが悪いからではありません。
集中しているときは、音も落ち着く
保育の中身でも音は変わります。志村氏が5歳児クラスを4週間記録した研究では、子どもが製作に取り組んでいる時間は、一人ひとりが「自分の手元に集中して取り組み」、平均70〜80dBで、突き抜けて大きな音もない落ち着いた状況でした。
逆に、騒がしい中で全員に一度に伝えようとすると、こうなりがちだと書かれています。
特に一斉に情報を伝達しようとするとき,「騒音」が背景にある場合はどうしても保育者は強い響きで声を発していくことになり,騒音を更に増す原因の一つとなる可能性もある。
遊びに集中できる環境があれば、大人が大きな声を出す場面そのものが減ります。環境づくりの話は、環境を作りはじめた先生の悩みの記事でも書いています。
部屋で減らす
効果が数字で確かめられているのは、天井などへの吸音材です。
神奈川県の保育園で、3〜5歳児が使う部屋の天井と壁に、あとから吸音材を取り付けた実験があります。響き(残響時間)は0.79秒から0.45秒に縮み、1日の平均の騒音は74.9dBから70.1dBへ、約5dB下がりました。昼食のときに80dBを超えることもなくなっています。
横浜市の幼稚園の4歳児室で、天井の吸音材の量を変えた実験では、部屋の平均吸音率を0.25以上にすると、活動中の騒音が約3dB下がりました。吸音した条件では、保育者のつぶやきが子どもに届くようになり、全体の注意を集めなくても意図を共有できるようになった、と報告されています。
ただし、最初の実験では、日がたつにつれて騒音が元の状態に近づく傾向も見られました。大きな声が習慣になっていたためです。部屋を変えたら、大人も声の出し方を変える。 両方がそろって効きます。
お金をかけずにできること
研究に出てくる工夫を挙げます。
- 畳やマットを置く: 埼玉大学教育学部附属幼稚園の3歳児クラスでは、部屋のコーナーに本畳を6枚置いていて、それが響きを減らし、やり取りを支えていると志村氏は書いています。マットを敷いた遊具は、分けて置くより部屋の中央にまとめたほうが響きが短くなった、という測定もあります
- 吸音の布やカーテン: 部屋の響きを減らす方向の工夫です。ただし建築学会は「カーテンのような軽量の仕切りや上部が空いたパーティションでは遮音の効果は期待できません」と書いています。隣のクラスの音を遮るものではありません。吸音をうたう製品は、メーカーが吸音率を公表しているかを確かめてください
- 声のものさしと、小さな音楽: 声の大きさを3段階の動物の絵で示す、昼食のときに小さく音楽を流して聞こえなくなったら声を小さくする合図にする。宮塚氏らの実験で試され、保育者の評価はよいものでした。ただし、これだけの効果は測られていません
隣のクラスの音が気になるときは、仕切りの隙間や上の開きを確かめ、歌や楽器など音の出る活動の時間をずらすのも一つの方法です。
明日、確かめられること
- 今日「静かにして」と何回言ったかを数えてみる。言いたくなったら、全体に向けて声を張る代わりに、近くに行って話す
- 自分の保育室が響くかを振り返る。研究の中で、ある保育者は「反響する部屋しか知らなかったので、それが普通だと思っていた」と話しています
- 部屋のコーナーにマットや畳を置ける場所があるか見る
- 隣のクラスとの間の仕切りに、隙間や上の開きがないかを確かめる
- 園長・法人の立場なら、改修や新築のときに吸音仕上げを予算から削らない。天井の一部でも効果があります。自分の自治体の保育所の整備の手引きに、音や吸音の記述があるかも確かめる
もっと知りたい人には、音環境の研究者たちが書き、保育現場の人の座談会も収めた『子どもと音環境 つぶやきが聞こえる環境づくり』(野口紗生・船場ひさお編著、エイデル研究所、2025年)があります。2025年度のこども環境学会賞(論文・著作賞)を受けた本です。
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