環境を作りはじめた先生の5つの悩み 部屋が散らかるのは失敗ではありません
一斉保育の幼稚園から、遊びを中心にした幼稚園に移ってくると、同じところでつまずきます。コーナーを出しっぱなしにできない、全員に合う環境が作れない、ケガが心配で止めてしまう、部屋が散らかる、何を足せばいいか分からない。一斉保育で身についた感覚とどこがぶつかっているのかを整理して、明日できることと、受け入れる園長・主任ができることを書きました。
一斉保育の園では、片づいた部屋で、全員が同じことをしていて、危ないことは先生が止める。それが「ちゃんとした保育」の姿だったかもしれません。
遊びを中心にした保育に切り替えはじめると、その感覚とぶつかります。部屋は散らかる。子どもはばらばらのことをしている。止めたほうがいいのか、待ったほうがいいのか分からない。
つまずくのは、保育が下手だからではありません。 前の園で身につけた感覚が、新しい保育と違う形をしているだけです。よくある5つの悩みについて、どこがぶつかっているのかと、明日できることを書きました。
1. コーナーを置きっぱなしにできない
みんなで集まる時間もあるし、お弁当もこの部屋で食べる。遊びのコーナーを出しっぱなしにできない。
ここでぶつかっているのは、「環境=コーナーを常設すること」という思い込みです。文部科学省の指導資料は、子どもが関わる環境を、物だけでなく「時間や空間」まで含めて説明しています。同じ資料には、絵本や歌をいつも同じ保育室でするのではなく、テラスや園庭の木陰でするのもよい、という例もあります。
置きっぱなしにできないなら、出す時間を決めればいい。場所が足りないなら、廊下やテラスも保育の場所として考えればいい。片づけるときも、全部をしまわずに、続きをやりたい物だけは残しておける場所を1つ作っておくと、翌日に遊びがつながります。
明日やること:動かせる棚を1つ決めて、遊びの時間にだけ出す。
2. 全員にぴったりの環境が作れない
同じ4歳でも、夢中になるものはばらばら。全員に合う物が見つからない。
ここでぶつかっているのは、「全員が同じことをできるように準備する」という一斉保育の前提です。遊びの環境は、全員が同じものに夢中になることを目指していません。文科省の資料が環境を作る視点の最初に挙げているのも、「今何に興味があるのか、夢中になっているのか」を捉えることでした。クラス全員ではなく、いま何かに夢中になっている子から始めていい。
保育者向けの研修を続けている高山静子さんは、一斉保育から切り替えはじめた先生からよく受ける質問への答えを、ブログで紹介しています。そこには、こうあります。
環境づくりは100点満点中30点で十分です。
どこにも入れずにいる子には、物より先に必要なものがあるかもしれません。遊びに入っていけない子には、物を足す前に、まず先生がそばにいるほうが先のことがあります。
明日やること:今日、どこにも入れずにいた子がいたら、まず少しそばにいる。その子のための物は、来週考えればいい。
3. ケガが心配で、つい止めてしまう
危ないと思ったら止める。それ自体は間違っていません。ただ、一斉保育では先生が全体を動かしていたので、「止める」が先生のいちばん手っ取り早い道具だったかもしれません。
遊びの環境では、もう1つ道具があります。物の置き方を変えることです。 文科省の資料には、ねらいに合わせて、必要なものを環境に取り入れたり、逆に「環境から取り除いたりする」必要がある、と書かれています。毎回止めている場所があるなら、止める前に、そこに置いてある物を見直せます。
それでも止めすぎてしまうときは、止める前に一呼吸おいて、その子がなぜそれをしているのかを考えてみてください。理由が見えると、待てる場面が増えます。
明日やること:今日「だめ」と言った場面を1つ思い出す。物を動かせば言わずに済んだか、考えてみる。
4. 部屋が散らかって、これでいいのか不安になる
一斉保育の園から来た人ほど、ここがつらいと思います。片づいた部屋は、ちゃんと保育ができているしるしだったからです。
遊びの部屋が散らかるのは、使われた跡でもあります。散らかったこと自体を失敗と考えなくていい。玉川大学の大豆生田啓友さんも、幼稚園教諭だったころの環境づくりをふり返るインタビューで、子どもがいろいろな物を選び取れる環境にするのは「管理が大変であるという意味でもあります」と話したうえで、それでも選び取れる環境にするべきだと続けています。大変なのは、あなただけではありません。
ただ、散らかりすぎて遊びが途切れるなら、置き方で減らせます。2で紹介した高山さんの記事には、遊ぶ場所ごとにじゅうたんの色を変えるなど、散らかりにくくする工夫もいくつか挙がっています。
明日やること:片づけの時間を待たずに、遊ばれずに床にある物を、自分で棚に戻してみる。床が空くと、子どもがまた棚から選びはじめます。
5. 何を足せばいいか分からない
部屋にあるのは、ままごと、ブロック、パズル。これで足りているのか分からない。
文科省の資料に、分かりやすい例があります。子どもが電車に夢中なら、電車を作れる素材を用意する。ただし、手で動かす小さな電車を作りたいのか、自分たちが乗れる電車でごっこ遊びをしたいのかで、用意する素材も場所の広さも違う。足す物は、子どもが何をしたがっているかで決まる、ということです。
ダンゴムシに興味をもった子がいたら、一緒に飼育ケースを作って、その近くに図鑑を置いておく。そうすると、それまで関心のなかった子も興味をもち始める、という例もあります。
では、子どもが何をしたがっているかは、どう分かるのか。いちばん早いのは、一緒に遊んでみることだと思います。お店屋さんごっこに客として入ってみると、子どもが何を作りたがっているか、何が足りなくて困っているかが、外から見ているよりずっとよく分かります。ごっこ遊びに足す物の考え方は、高山さんの「ままごとと、ごっこ遊び」に詳しく書かれています。
明日やること:コーナーに15分入って子どもと遊ぶ。「これがあったら」と思った物を1つメモする。
外れても、それでいい
置いた物が、まったく使われないこともあります。文科省の資料は、先生の記録の良い例として、「自分の用意した環境が見向きもされずに失望したりすることもある」と率直に書かれた記録を挙げています。外れるのは、ベテランでも同じです。
では、何ができていれば「今日はよかった」と言えるのか。一斉保育では、予定どおりに活動が進んだか、段取りよくできたかが物差しだったかもしれません。遊びを中心にした保育では、その物差しを持ち替えます。今日、子どもが自分から何かに取り組んでいたか。昨日置いた物に、誰か1人でも手を伸ばしたか。
2で紹介した高山さんの記事は、こう結ばれています。
悩んでいる人は、伸びている人。悩みは成長の証です。
遊びを中心にした保育で先生が何をするのかは、保育中の役割の記事と、「放任では?」の記事にも書きました。
受け入れる園長・主任にできること
移ってきた先生がつまずくのは、その人の力不足ではなく、前の園で身につけた物差しのせいです。受け入れる側が少し手を貸すだけで、切り替えはずっと早くなります。
- 前の園のやり方を、否定から入らない。一斉保育で使っていた製作や絵本や歌は、そのまま保育室の環境の材料になります(「放任では?」の記事で書きました)
- 帰りの10分、「明日、何を1つ出すか」を一緒に考える。翌日の準備のしかたは、見て覚えるより、一緒にやったほうが早く身につきます
- 最初は、コーナーを1つだけ任せる。クラス全体の環境を一度に考えなくていいようにする
- 帰りの会など、前に立って話す・見せる・紹介する得意が活きる場面を渡す
- 「30点でいい」「置いた物が使われなくても失敗ではない」と、最初に言葉にして伝えておく
明日、これだけやってみる
- 動かせる棚を1つ決めて、遊びの時間にだけ出す
- どこにも入れずにいた子がいたら、まず少しそばにいる
- 「だめ」と言った場面を1つ思い出し、物を動かせば防げたか考える
- 床に残った物を、片づけの時間を待たずに自分で棚に戻す
- コーナーに15分入って子どもと遊び、足りない物を1つメモする
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