ニュース解説

幼稚園が1歳児を預かっていいの? 福岡で応募が殺到したニュースを調べました

福岡のテレビ局が、こんなニュースを流していました。

幼稚園が1歳児の募集を始めたら、応募が殺到した。 定員5人で始めたのに希望者が多く、市に相談して10人に増やした、と。福岡市博多区の山王幼稚園の話です。

読んで最初に思ったのが、「幼稚園って1歳児を預かっていいんだっけ?」でした。幼稚園は3歳からのはずです。

調べてみたら、ちゃんと仕組みがありました。しかも、自分の地域でも起きるかどうかは、市区町村がどうするかで決まる話でした。

国に、そういう仕組みがあります

一時預かり事業という国の事業があります。その中に「幼稚園型Ⅱ」という種類があって、こう説明されています。

幼稚園型Ⅱ(平成30年度創設):幼稚園において、保育を必要とする0~2歳児の受け皿として、定期的な預かりを行う事業

平成30年度、つまり2018年度にできたものです。「一時預かり」という名前がついていますが、行事のときだけ預かるような話ではなく、0〜2歳を定期的に預かる仕組みです。開所日数や時間は「地域の実情に応じて設定」とされていて、実際に福岡市も仙台市も月〜金でやっています。

対象は3号認定を受けた子ども。つまり保育所に入るときと同じ、「保育が必要」という認定を受けている必要があります。

ただし、どこでもできるわけではありません

資料には、実施できる主体がこう書かれています。

保育提供体制の確保のための「実施計画」の採択を受けている市区町村

市区町村が計画を出して採択されないと、その地域では始まりません。 幼稚園が「やりたい」と思っても、自治体が動いていなければ制度が使えない、ということです。

だから同じ日本でも、地域によって状況がまったく違います。

3つの市を並べてみると

どのくらい違うのか、3つの市を並べてみます。どこも私立幼稚園で3歳未満の子を預かる事業です。

福岡市仙台市吹田市
対象年齢生後3か月〜2歳2歳児1・2歳児
実施園18園3園2園
1日の預かり8時間以上園により異なる10時間以上・最長11時間

(福岡市は令和6年4月時点の一覧、仙台市と吹田市は市のページに載っている現在の実施園です)

福岡市が公表している令和6年4月時点の一覧を数えると、18園で受入枠は324人。内訳は1歳児が63人、2歳児が261人です。1歳児を受け入れているのは18園のうち7園だけで、残りは2歳児からでした。市のページでは対象を「生後3か月〜2歳」としていますが、この一覧に0歳児の欄はありません。

冒頭のニュースによれば、今年度は市内25の幼稚園が1〜2歳児を受け入れているとのことです。増えている方向にあります。

一方の仙台市は3園(青葉区に1園、宮城野区に2園)。対象も2歳児だけです。吹田市は2園で、1歳児の枠は3人、2歳児が合わせて11人でした。

その吹田市は、市のページのタイトルに「私立幼稚園における1・2歳児保育(一時預かり事業(幼稚園型Ⅱ))」と、国の事業名をそのまま入れています。今回の話がこの制度のことだと、いちばんはっきり分かる例です。

なお、保護者の就労要件は福岡市が月60時間以上、仙台市が月64時間以上。吹田市は3号認定を取ることが条件と書かれています。

同じ仕組みでも、自治体によって規模がひと桁違う。 「幼稚園が乳児を預かるらしい」という話を聞いても、自分の地域で起きるとは限らない、ということになります。

預かるときのルールは、思ったよりきちんとしています

「幼稚園で0〜2歳」と聞くと、大丈夫なのかと思うところです。ここは原典を読んでみました。

職員の数は、認可保育所と同じでした。

年齢職員1人あたりの子どもの数
0歳3人
1歳6人
2歳6人

計算上1人でいい場合でも、原則2人以上を配置することになっています(幼稚園の保育士か幼稚園教諭から支援を受けられる場合は1人でも可)。

資格については、こう決まっています。

  • 担当できるのは、保育士・幼稚園教諭免許を持つ人・子育て支援員の研修を修了した人(当分の間、小学校教諭や養護教諭の免許を持つ人なども含まれます)
  • そのうち2分の1(当分の間は3分の1)以上は、保育士か幼稚園教諭免許を持つ人であること
  • 2歳児の場合は、配置する職員の中に必ず保育士を1人入れること
  • 0・1歳児の場合は、従事者の2分の1以上を保育士にすること

つまり低年齢になるほど、保育士資格が必須になっていく設計です。0・1歳を預かるなら半分以上が保育士でないといけません。

保育室の広さにも基準があって、0・1歳児を預かる場合はほふく室も必要とされています。

さらに0・1歳児については、都道府県の確認を「原則年1回以上行うなど、定期的に行うことが望ましい」とされています。非常災害の措置、給食、健康管理・安全確保、利用者への情報提供が確認の項目です。

認可保育所とは違うところもあります

一方で、保育所と同じではない部分もあります。

  • 給食は自園調理でなくてよい。 外部から搬入する場合、調理室はいりません(保存や加熱のための最低限の設備は必要)
  • 認可外保育施設としての届出は不要
  • 入園は、保護者と園の直接契約。 受入枠を超える申込があったときは、保育の必要度が高い順に決まります
  • 認定こども園は対象外。 この事業ができるのは幼稚園だけです

3つ目は、ニュースでも触れられていた点です。認可保育所のように市が点数で調整するのではなく、園に直接申し込む形になります。

福岡市の場合、預かる時間は月〜金で1日8時間以上(土曜日の開所は園によって違います)。保護者が払う保育料は、保育所を利用するときと同額(上限49,000円)と決まっています。

園ごとの利用料は園によって40,000円〜49,000円とばらつきがありますが、市の補助金の資料には「利用料を保育料並みに減免し、その減免額を補助」と書かれています。園が下げた分を市が埋める形です。ただし給食費や送迎、行事の費用は別にかかることがあります。

「未満児保育」や「プレ」とは、何が違うのか

ここが分かりにくいところです。

まず、「未満児」は制度の名前ではありません。 満3歳になっていない子ども、つまり0・1・2歳児のことを指す呼び方で、「以上児(3歳以上児)」の対になる言葉です。現場の言い方なので、「未満児保育をやっています」と聞いただけでは、どの仕組みでやっているのかは分かりません。

幼稚園が0〜2歳を預かる方法は、いくつかあります。

保育の必要性の認定預かる頻度
認定こども園になって保育の枠を持つ要毎日
一時預かり事業(幼稚園型Ⅱ)要定期的・8時間が原則
プレ保育・未就園児クラス不要園による
こども誰でも通園制度不要月10時間まで

見分けるポイントは「保育の必要性の認定(3号認定)が要るかどうか」です。

認定が要るものは、働いている家庭が毎日預けるための器。要らないものは、誰でも使えるかわりに、毎日フルでは預けられない器です。

福岡市の子育てガイドでも、この2つは別の行に載っています。「幼稚園3歳未満児受入れ促進事業」は認定が必要。もう一方の「幼稚園のプレ預かり(未就園児クラス)」は、認定も手続きも「不要」で、2歳クラスのところに置かれています。

だから、「1歳もやっている」と聞いたときは意味が変わります。 毎日1歳児を預かるとなると、プレや誰でも通園の器では収まりません。認定が要るほうの器を持っている、ということになります。福岡市の一覧で1歳児の枠がある園が18園中7園だけ、吹田市でも1歳児は3人枠だけだったのは、そういうことだと思います。

なお、こども誰でも通園制度は今年度(令和8年度)から新しい給付になり、全国の自治体で実施されることになりました。対象は0歳6か月から満3歳未満で、保育所などに通っていない子。就労要件はなく、利用できるのは月10時間までです(令和8・9年度は経過措置として、市町村が条例で3時間〜10時間未満の範囲で設定できます)。幼稚園も実施できる場所に入っています。

つまり0〜2歳をめぐっては、幼稚園につながる道が同時に何本も開いている、というのが今の状態です。

なぜ今、幼稚園がこれをやるのか

背景の数字を見ると、事情が見えてきます。

幼稚園の数は、昭和60年度の15,220園から、令和6年度は8,530園まで減っています。 4割以上の減少です(この数字は幼稚園型認定こども園を含み、幼保連携型認定こども園は別に数えられています)。在園者数は757,968人で、1園あたりの在園児数は平均89人。私立に限ると113人、公立は33人です。

一方で、こんな数字もあります。

年齢人口から推計される未就園児は、0~2歳児の約5割(約53.5%:約125万人)、3~5歳児の約3%(約8万人)となっている

令和6年度の推計です。3〜5歳はほぼ全員どこかに通っているのに、0〜2歳は半分が通っていない。 幼稚園から見れば、3〜5歳の子どもは取り合いになっていて、0〜2歳にはまだ余地がある、ということになります。

冒頭のニュースで「応募が殺到した」のも、この構図の話だと思います。

保育士の側から見ると

ここまでは制度の話でした。保育の仕事をしている立場だと、気になることを3つ挙げます。

1. 0〜2歳の預け先が増える方向にある

待機児童の記事で書いたとおり、全国では定員充足率が下がっていて、席は用意しているのに埋まらない園があります。同時に、地域によっては0〜2歳の待機が出ています。

そこに幼稚園が入ってくると、0〜2歳の受け皿が増えることになります。待機が出ている地域では助かる話ですが、定員に空きがある地域では、申込先が分散する話でもあります。どちらに効くかは地域によります。

2. 幼稚園が保育士の職場になる

配置基準を見れば分かるとおり、この事業をやる幼稚園は保育士を雇う必要があります。 0・1歳を預かるなら従事者の半分以上、2歳児クラスなら最低1人。

求人を見るときに「幼稚園なのに乳児保育?」と思うものが出てきたら、これかもしれません。

3. 仕組みが認可保育所と違うので、確認する点がある

もし転職先として見るなら、確認しておきたいことがあります。給食が外部搬入か自園調理か。配置に幼稚園教諭や子育て支援員が何人入っているか。基準としては保育士でなくてもよい枠があるので、実際の体制は園によって差が出ます。

「保育所と同じだと思って入ったら違った」を避けるには、見学のときに聞くのがいちばん早いと思います。

自分の地域はどうなのか

この話がいちばん効いてくるのは、自分の地域でやっているかどうかです。

調べ方は簡単で、「(自治体名) 幼稚園 3歳未満児」で検索すると、やっている自治体なら市のページが出てきます。福岡市も仙台市も吹田市も、実施園の一覧まで公開していました。

もしやっていれば、近所の幼稚園が0〜2歳を預かり始める可能性がある、ということになります。やっていなければ、少なくとも今のところは関係のない話です。

たとえば東京都北区を見てみたのですが、区のサイトにこの事業にあたるページは見つかりませんでした。かわりに、私立幼稚園の補助についての「よくある質問」に、こう書かれています。

2歳児クラスに通っています。補助金をもらうことはできますか

入園料や保育料等が補助対象となるのは、幼稚園の「満3歳児クラス」に在籍しており、3歳の誕生日を迎える前日からです。なお、満年齢が3歳に達していても、幼稚園が独自に実施する子育て支援活動に要した費用は補助対象外ですのでご注意ください。

つまり北区では、幼稚園の2歳児クラスは園が独自にやっているものという位置づけになります。北区は待機児童の記事で3番目に多かった自治体(103人)ですが、幼稚園を0〜2歳の受け皿にする仕組みは、少なくとも区のサイトからは確認できませんでした。

同じ「幼稚園の2歳児クラス」でも、制度の中にあるのか外にあるのかで別物、ということです。制度の中にあれば保育の必要性の認定が要り、配置基準がかかり、市の補助が出ます。外にあれば、そのどれもありません。

なお、全国で何園がこの事業をやっているかは、公表資料からは分かりませんでした。 分かったのは、自治体ごとの一覧までです。

まとめ

  • 幼稚園が0〜2歳を預かる仕組みは、2018年度から国にある(一時預かり事業の幼稚園型Ⅱ)
  • ただし市区町村が計画を出して採択されないと始まらないので、地域差が大きい
  • 職員の配置基準は認可保育所と同じ。低年齢ほど保育士資格が必須になる
  • 給食・契約・届出のルールは保育所と違うので、働く側は確認したほうがよい

概算要求の記事で書いたとおり、0〜2歳の支援については、国の来年度予算でも「予算編成過程で検討」とされたまま決まっていません。0〜2歳をどこが引き受けるのかは、まだ動いている最中の話です。年末の予算編成と合わせて、また追いかけたいと思います。

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