待機児童、実は"増えた"って知ってましたか? 園長先生たちが園児数を気にする理由
こども家庭庁の最新の取りまとめで、待機児童数が久しぶりに増加に転じました。上位5位はすべて東京都。自治体へのヒアリングで語られた「申込者が増えた理由」まで含めて、園ごとの状況差が広がっている背景を整理します。
こども家庭庁が毎年発表している「保育所等関連状況取りまとめ」の最新版(令和8年4月1日時点)が公表されました。数字だけ見るとやや意外な内容だったので、実際の中身を見てみます。
ずっと減り続けていた待機児童が、今回は増えた
この10年近く、待機児童数は基本的に「毎年減っている」という報道が続いてきました。実際、1年前の令和7年の発表でも、待機児童数は2,254人で前年から313人減少しています。
ところが今回の令和8年の発表では、待機児童数は2,435人。前年から181人の”増加”に転じています。待機児童が100人以上いる自治体も、前年の1市から3自治体に増えました。
「保育園に入りやすくなっている」という空気が、ここ数年当たり前になっていたところに、久しぶりの逆風です。
でも、子どもの数自体は減っている
一方で、ややこしいのはここからです。保育所等を利用している子どもの数そのものは265万人で、前年より3.2万人減っています。利用定員(受け入れ枠)も302万人で、前年より1.3万人減少。
つまり、「子どもの数は減っているのに、入れない子は増えた」という、一見矛盾した状況が起きているわけです。
これは全国一律にそうなっているわけではありません。全国1,741市区町村のうち、89.1%にあたる1,552市区町村では待機児童が0人です。待機児童の75.5%は都市部に集中しています。
つまり「待機児童が増えた」といっても、増えているのは一部の地域だけ、ということになります。
もう一つの数字も気になるところです。定員に対してどれだけ子どもが実際に利用しているかを示す「定員充足率」は87.7%で、これも前年より0.7ポイント下がっています。空き枠自体は増える方向にあるということです。
東京都だけを見ると、様子が違う
ここまでは全国データの話でしたが、東京都福祉局が同じタイミングで発表した「都内の保育サービスの状況」を見ると、様子がかなり違います。
東京都の令和8年4月1日時点の保育サービス利用児童数は325,918人で、前年より2,498人”増加”しています。全国では利用児童数が減っているのに、東京都だけを見るとむしろ増えているわけです。
待機児童数も1,113人で、前年より774人増加。この増加幅は、全国の増加幅(181人)の4倍以上にあたります。つまり、今回の「待機児童が増えた」というニュースは、実は東京都のような特定のエリアで特に大きく効いている数字だった、ということが見えてきます。
全国では少子化で子どもの数が減っている一方、東京都では逆に保育を必要とする子どもが増えている。全国平均だけを見ていると、こうした地域差は見えてきません。
(なお、国の集計と東京都の集計は対象としている施設の範囲が完全には一致しないため、単純な比較はできない点には注意が必要です。それでも「東京は全国の流れと逆方向に動いている」という大枠の傾向は読み取れます。)
待機児童が多い自治体は、上位が東京で埋まっています
市区町村別に見ると、この偏りがもっとはっきりします。待機児童数の多い上位10自治体はこうなっています。
| 自治体 | 令和8年 | 令和7年 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 東京都 世田谷区 | 166人 | 47人 |
| 2 | 東京都 足立区 | 106人 | 7人 |
| 3 | 東京都 北区 | 103人 | 18人 |
| 4 | 東京都 町田市 | 90人 | 40人 |
| 5 | 東京都 江戸川区 | 75人 | 0人 |
| 5 | 兵庫県 西宮市 | 75人 | 76人 |
上位5位までを東京都の区市が占めています。 しかも足立区は7人から106人、江戸川区にいたっては0人から75人です。1年で状況が変わっています。
一方、同率5位の西宮市は76人から75人でほぼ横ばいです。東京だけが別の動き方をしていることが分かります。
増えた理由は、自治体が答えています
ここが今回の発表でいちばん興味深いところでした。こども家庭庁は、待機児童の多い自治体などにヒアリングを行っていて、都内の自治体が挙げた「申込者が増えた理由」が載っています。
- 共働き世帯や、共働きを希望する世帯が増えた
- 育休を早めに切り上げたり、就労のために求職活動を始める人が増えた
- 子育て支援を充実させたことで、子育て世帯の転入が増えた
- 保育料の第一子無償化(令和7年9月〜)による保育需要の増加
- 子育て支援策が充実したことで、都外への転出が抑えられている可能性
- 都心部の地価・家賃の高騰により、子育て世帯の転入が増えている
保育士の側から見て気になるのは、「保育士不足により定員どおりの受け入れができない施設が生じた」という回答も、待機児童を解消できなかった要因として挙げられていることです。
つまり、枠はあるのに人が足りなくて受け入れられない園がある。待機児童の問題と保育士不足の問題は、ここで直接つながっています。
「去年は0人だった」自治体が増えています
もう一つ気になる数字があります。待機児童のいる189自治体のうち、前年より増えたのは98自治体。そのうち43自治体は、去年は待機児童が0人でした。
一度解消したはずの自治体で、また待機児童が出ている。江戸川区の「0人 → 75人」は、その典型例ということになります。
園長先生たちが園児数を気にしている理由
園の運営に関わる話を聞く機会があると、園児数の増減を強く気にしている園長先生は多い印象があります。これは経営者としての自然な感覚だと思っていましたが、今回の数字を見ると、その感覚の裏付けになりそうです。
保育所等の運営費(公定価格)は、基本的に実際の利用児童数に連動する仕組みになっています。定員充足率が下がっているということは、多くの園にとって「席は用意しているのに、埋まらない」状態が続いている、あるいは強まっているということです。
一方で、特定の地域や年齢層では「入りたくても入れない」待機児童が増えている。つまり、園ごとに置かれている状況の差が、これまで以上に大きくなっている可能性があります。近隣に定員割れの園と、待機が出ている園が両方存在する、というようなことも起こり得るわけです。
まとめ
全体としての「保育士不足」「待機児童問題」は依然として語られ続けていますが、実際の数字を見ると、単純に「足りない/足りている」で語れる状況ではなくなってきているようです。
全国の9割近くの市区町村では待機児童が0人。その一方で、東京の一部の区市では1年で数十人単位で増えている。同じ「保育業界」の話でも、地域によって見えている景色がまったく違います。
自分の勤務先の園が、定員に対してどのくらい子どもを受け入れられているか。全国平均の87.7%と比べて高いか低いか。東京都内で働いている場合は、待機児童の増加幅が全国平均よりずっと大きいエリアにいる、ということも意識しておくとよさそうです。もし気になったことがなければ、一度意識してみると、園長先生たちが日頃口にする話の背景が見えてくるかもしれません。
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