虐待の「公表」で園の名前は出るのか 毎年出るのは件数と種類です
2026年10月、岡山県が保育施設などでの虐待の状況を初めて公表したと報じられました。施設名は出ていません。2025年10月の児童福祉法の改正でできた「毎年の公表」は、もともと施設名を出す仕組みではなく、国のガイドラインにもそう書かれています。個別の事案の公表との違い、名前が出るのはどんなときか、通報をためらう理由にならないかを、条文とガイドラインから整理します。
2026年10月15日、岡山県が、県内の保育施設などで2025年度に3件の虐待があったと公表しました。法律が変わってから初めての公表だと報じられています。そのうち1件は、認定こども園の保育教諭が5歳の女の子に暴言を言ったという内容でした。
報道の見出しには「県は施設名を公表せず」という言葉も並びました。「公表」と聞くと、園の名前が出るものだと思うかもしれません。けれど、法律で決まった毎年の公表は、もともと施設名を出す仕組みではありません。 国のガイドラインにも、そう書かれています。
ひとまず、この表だけで足ります
虐待の「公表」には、2種類あります。
| 毎年の公表 | 個別の事案の公表 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 児童福祉法 第33条の16 | 国のガイドライン |
| 誰が | 都道府県(市町村の分もまとめて) | その園を担当する自治体 |
| 何が出るか | 件数、虐待の種類、子どもの性別・年齢、施設の種類、職員の職種、自治体がとった対応 | 何があったか、自治体がどう指導したか |
| 施設名 | 出す仕組みではない | 自治体が判断する。子どもへの影響に配慮するとされている |
報道を見るかぎり、岡山県の今回の公表は左の「毎年の公表」にあたります。
毎年の公表は、件数と種類
2025年10月から、保育所や認定こども園、幼稚園などの職員による虐待には、通報の義務ができました(通報義務の記事)。同じ改正で、都道府県が毎年、虐待の状況を公表することも決まりました。
内閣総理大臣及び都道府県知事は、毎年度、内閣府令で定めるところにより、自らが所管行政庁である事業、里親、施設又は一時保護に係る被措置児童等虐待の状況、第三十三条の十四第二項又は第三項の規定により講じた措置、前項の規定により報告を受けた事項その他内閣府令で定める事項を公表するものとする。
条文に出てくるのは「虐待の状況」と「講じた措置」です。国のガイドラインは、何を公表するのかを具体的に挙げています。虐待を受けた子どもの性別や年齢、虐待の種類(身体的・性的・ネグレクト・心理的)、施設の種類、虐待をした職員の職種、自治体がとった対応です。そのうえで、こう書いています。
この定期的な公表制度は、各所管行政庁において、虐待の状況を定期的かつ的確に把握し、各所管行政庁における虐待の防止に向けた取組を着実に進めることを目的とするものである。したがって、虐待を行った施設名等を公表して施設等に対し制裁を与えるとの趣旨ではない。
実際の公表を見ると、たとえば鳥取県(2026年6月10日)は2ページの資料でした。通報が4件あり、そのうち虐待と認められたのが2件。2件とも認定こども園で、身体的虐待、子どもは2歳児が2人。並んでいるのは数字だけで、園の名前はありません。
最初の公表の対象は、法律が始まった2025年10月1日から2026年3月31日までの半年分です。国のQ&Aがそう答えています。公表の時期は都道府県によって違い、鳥取県は6月、岡山県は10月でした。
個別の事案は「公表を基本」に
毎年の公表とは別に、虐待があったと自治体が判断したときに、その事案を個別に公表することがあります。ガイドラインはこちらについて、公表を基本にするとしています。
さらに、行政の透明性の確保という観点から事案の公表を基本としたうえで、その性質や重大性等に応じ、対応について適切に判断していくことが重要である。公表は、保育所等における虐待等の防止に向けた各自治体の取組に反映していくことを目的とするものであり、公表することにより当該施設に対して制裁を与えることを目的とするものではないことに配慮するとともに、虐待等を受けたこどもやほかのこどもへの影響に十分配慮する形の公表とすることに留意が必要である。
たとえば堺市は2026年3月、市内の認定こども園で虐待があったとして、園を運営する法人に改善を勧告したことを公表しました。何が起きたかは細かく書かれていますが、園の名前は出していません。理由はこう書かれています。
虐待等を受けた園児及び他の園児への影響等を考慮し、当該園の施設名等を非公表としています。
子どもの側から見ると、園の名前と「5歳の女の子」が一緒に出れば、地域によっては誰のことか分かってしまいます。名前を出さないのは、園を守るためというより、まず子どもを守るためです。
名前が出るのは、どんなときか
児童福祉法には、施設名が出る場面も書かれています。認可外保育施設については、都道府県が改善を勧告したのに従わなかったときや、事業の停止を命じたときに、その旨を「公表することができる」とあります(第59条)。認可外の場合、名前が出るのは、虐待があったことそのものより、都道府県の勧告に従わなかったときや、事業を止める命令が出たときです。
保護者の側からすれば、どの園で起きたのか知りたいと思うのは自然なことです。子どもを預ける園を選ぶ手がかりになるからです。ただ、いまの仕組みで毎年必ず出るのは、件数と中身のほうです。
通報をためらう理由にはならない
現場の職員が通報をためらう理由のひとつに、「通報したら園の名前が出て、園がつぶれるかもしれない」という心配があるかもしれません。
ここまで見てきたとおり、毎年の公表は名前を出す仕組みではなく、個別の公表も子どもへの影響に配慮するとされています。ただし、個別の公表をどうするかは自治体の判断なので、「絶対に名前は出ない」とまでは言えません。
それでも、通報は義務です。通報したことを理由に不利益な扱いをすることも、法律で禁じられています。通報は子どもを守るためのもので、公表は次の虐待を防ぐためのものです。どちらも、園を罰するために作られた仕組みではありません。
明日、確かめられること
- 自分の都道府県のウェブサイトで「保育所等 虐待 公表」と調べて、2025年度の分が出ているか見る
- 出ていたら、どの種類の施設で、どんな虐待が多かったかを見る。園内研修の材料になります
- 園の虐待防止の研修で、「通報」と「公表」は別のものだということを共有する
- 通報の窓口(市町村か都道府県か)がどこか、園の掲示やマニュアルで確かめておく
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