保育所に法律上の「いじめ」はない 横浜市が検証報告書を出しました
横浜市が、認可保育所で起きた子ども同士の事案について検証報告書を公表しました。いじめ防止対策推進法の「いじめ」は小学生からなので、保育所は対象外。報告書は「いじめに相当すると考えられる行為」と呼んでいます。園の対応そのものより、保護者に伝えなかったことが問題とされました。
横浜市が9月8日、市内の認可保育所で起きた子ども同士の事案について、検証報告書を公表しました。市の児童福祉審議会がまとめたもので、本体25ページと概要9ページが読めます。
対象は横浜市ですが、論点は全国どこの園にも当てはまります。 そして読んでいて、いちばん引っかかったのは事案そのものではありませんでした。
保育所に「いじめ」という言葉はありません
まず制度の話です。報告書の冒頭にこう書かれています。
未就学児の発達段階等を踏まえ、保育所や幼稚園におけるこども同士のトラブルについては、学校におけるいじめとは異なる性質のものとして整理されており、「いじめ防止対策推進法」の対象とはなっていない
法律の「いじめ」は小学生からです。保育所も幼稚園も入っていません。
国の考え方も引かれていました。
幼児期は、他者との関わり合いの中で、様々な葛藤やつまずきなどを体験することを通して、将来の善悪の判断につながる、やってよいことや悪いことの基本的な区別ができるようになる時期(略)幼児の行動をいじめや暴力行為として扱うことについては、慎重に考える必要がある
だから国は、幼稚園でのいじめや暴力行為の実態を把握していません。統計そのものを取っていないということです。
そのため報告書は、この事案を「いじめに相当すると考えられる行為」と呼んでいます。
未就学児のため、いじめ防止対策推進法が規定する「いじめ」には該当しませんが、年齢以外の要件は満たしており、「いじめに相当すると考えられる行為」であるとされました
年齢以外は全部当てはまっている。 制度の隙間が、そのまま言葉に出ています。
報道の見出しと、報告書の言葉
この件は新聞でも報じられていて、「いじめを認定」という見出しが出ています。報告書自身が使っている言葉は「いじめに相当すると考えられる行為」で、本体に10回、概要版に4回出てきます。
PTSDは、報告書の本体に2回出てきます。1回目は時系列の記述で、「当該保護者から局に対し、メールで、児童AがPTSDと診断されたとの情報提供があった」。2回目は保護者が市へ出した申入書の引用で、「現在のPTSD発症と在園時の体験との因果関係の認定」を求める要望としてです。
報告書がその因果関係を認定した記述は、本体にも概要にもありません。「因果関係」という語自体、本体の申入書の引用に1回出てくるだけです。診断があったことと、園での出来事が原因だと市が認めたことは、別のことです。
見出しは短くするほど強い言葉になります。元の言葉のほうを覚えておくと、園で話題になったときに迷いません。
ただし、放置すれば虐待になります
言葉が無いから何もしなくていい、ではありません。
保育所等において、児童の間でいじめに相当すると考えられる行為が発生した場合に、保育所等が対応せずに放置することは「ネグレクト」として虐待に該当する
そして、この検証が行われた背景に法改正がありました。
令和7年10月の児童福祉法改正により、保育所等において虐待が疑われる事案について、行政が対応した場合には、児童福祉審議会へ報告することが義務付けられた
今回の検証は、その仕組みに乗って行われています。去年からこうなったということです。
何が起きたか
令和6年度に5歳児だった子(報告書では「児童A」)について、卒園後の令和7年4月に保護者から市へ相談がありました。
保護者が挙げた4件のうち3件は事実と確認され、1件は確認できませんでした。さらに保護者が把握していなかった2件が検証の過程で見つかり、事実とされたのは計5件です。
内容は、「しね ばか だいきらい」と書かれた手紙、容姿を揶揄する発言、「ママ消えればいいのに」という発言などでした。
園は「対応していた」と認定されています
ここが報告書の判断で重要なところです。
当該園はそのつど、児童の話を聞いて指導するなど、一定程度の介入をおこなっており、こども同士の間に起きたいじめに相当すると考えられる行為を放置したとまでは言えず、当該園の行為はネグレクトには該当しない
手紙の件では相手の子に聞き取りをして謝るよう指導し、実際に謝っています。容姿の発言もその場で注意し、「ママ消えればいいのに」も当日に双方の保護者へ説明しています。
その場での対応はしていた。 では何が問題とされたのか。
問題は「2週間、伝えなかった」ことでした
手紙の件だけ、保護者への報告がありませんでした。
事案発生から2週間弱が経過し、当該保護者から聞かれて初めて説明した、という点において、当該園は事案の重大性について認識が欠けていたと言わざるを得ない
そして、園が伝えなかった理由が書かれています。ここがこの報告書でいちばん重い部分だと思いました。
数日前に当該保護者に『ママ消えればいいのに』の件を伝えたばかりだったので、当該保護者に心配をかけたくなかった」「保育者が介入して、こども同士で解決できたからそれでいいと思った」
悪意ではありません。 心配をかけたくなかった、その場で解決したから、という判断です。同じことを考えたことがある人は、少なくないと思います。
報告書はこう返しています。
こども同士の行為であっても、保護者に対して速やかに報告し、行為をされた児童の保護者、行為をした児童の保護者、園の3者で話し合ってこどもの心のケアを行うなど、関係者全員がこどもの方を向いて対応する必要がある
伝え方まで指摘されています
説明の場面についても書かれていました。
実際の説明は担任が一人で対応し、他に立ち会う職員はいなかった(略)夕方のお迎えの時間に、保育室の前で40分程度立ったまま説明を行った
保護者に重要な説明をする際は、1対1ではなく複数で対応し、他の保護者に話を聞かれないスペースで行うことが望ましい
お迎えの時間に保育室の前で40分。担任が一人で抱えた形です。これも珍しいことではないと思います。
市の側も、同じ分量で検証されています
報告書は園だけを見ていません。区と局の対応にも節が割かれています。
- 区から園への立入調査の目的や口頭指導の有無について、双方の認識が食い違っていた
- 局が電話で行ったとされる口頭指導について、園には口頭指導を受けたという認識が無かった
- 区は保護者に送ったメールの返信を待つ受け身な姿勢だった
行政が自分の落ち度を書いているのは、あまり見ない形です。提言にも「市職員が保護者に寄り添った対応を行える体制の構築」が入っています。
明日、確かめられること
提言の中で、園がすぐ動かせるものを拾います。
- 保護者に伝えるかどうかの線引きが、園で決まっているか。 報告書は「異変の察知、園長や法人への報告・連絡・相談、保護者への報告について、マニュアル等で手順を定めること」を提言しています
- 「その場で解決したから伝えない」を、自分がやっていないか。 園が挙げた理由がこれでした
- 悪い情報ほど早く上げているか。 提言に「悪い情報ほど、速やかに園内や法人本部への報告・連絡・相談を行うこと」とあります
- 重い説明を担任一人にさせていないか。 複数で、他の保護者に聞かれない場所で、が望ましいとされています
- 子ども同士のことを話す場を、園内で持っているか。 「保育者同士の意見交換を随時行い、異変に気付きやすい環境を作ること」も提言に入っています
報告書は25ページで、事案の記述も具体的です。園内研修の材料としてそのまま使える内容だと思います。横浜市以外の園でも読めます。
この記事はいかがでしたか?
もう少し詳しく伝えたいことがあればご意見・お問い合わせからどうぞ。 いただいた内容は公開されません。