ニュース解説

キャリアアップ研修の見直しが始まりました 再受講が要るかもしれません

前の記事で、キャリアアップ研修は60時間だという話を書きました。1分野15時間を4つ。土日開催が多いので、年度をまたぐ計画が要る、と。

その仕組みが、いま見直されようとしています。

9月10日の15時30分から、こども家庭庁の「保育士養成課程等検討会」が開かれました。議題はひとつだけです。

保育士等キャリアアップ研修及び保育士のキャリアラダーに関する検討課題について

会議の資料が公開されています。中身を読むと、受けた人の損得に直接かかわる案が入っていました。

先に書いておきます。まだ何も決まっていません。 資料は「検討事項(案)」で、書かれているのは全部「どう考えるか」「必要ではないか」という問いです。ここで紹介するのは会議に出された資料であって、そこで何がどう議論されたかは、議事録が出るまで分かりません(この検討会では、過去の回で開催から3週間前後かかっています)。

修了証が、期限つきになるかもしれません

いちばん大きいのはここです。

研修の受講と連動する加算措置を受け続けるためには、最初に研修を受講してから数年後に学び直し(研修の再受講)が必要な仕組みとすることについて、どう考えるか。

一度受ければ終わり、ではなくなるかもしれないということです。

前の記事で、修了証は全国で有効だと書きました。東京で受けたものが大阪に移っても使える、と。その性質は変わりませんが、「何年前に受けたか」が問われるようになる可能性が出てきたことになります。

これは国が急に言い出した話ではありませんでした。事前に行われた関係団体へのヒアリングでも、同じ提案が出ています。

加算措置を受け続けるためには、研修を受講して数年後に学び直しが必要となるような仕組みを設け

団体側の言い分は「学び続ける環境を整える」ためです。負担を増やすことが目的ではない、という立て付けになっています。

都道府県の半分が「加算が目的になっている」と答えました

同じ検討会に、アンケートの結果が出ていました。

令和8年7月 24 日~8月7日まで、47 都道府県及び全国の幼児教育・保育施設等に対して

行ったもので、

43 都道府県から回答があり、幼児教育・保育施設向けのアンケートでは 9,786 件の回答があった。

課題意識を聞いた設問の答えが、かなり踏み込んでいます。

都道府県施設
研修を受ける時間や代替職員の確保が困難46.5%57.9%
保育の質を高めることよりも加算を受けることが目的になっている46.5%31.7%
15時間かけるより段階別に受講できるほうが効率的—25.3%
受講した職員に加算が適切に還元されていない9.3%7.6%

研修を実施している都道府県の側が、半分近く「加算を受けることが目的になっている」と答えています。 運営している当事者が、制度の建前と実態のずれを認めた形です。

施設側でも31.7%が同じことを答えています。現場で「加算のために行かされている」という感覚があるとしたら、それは気のせいではありません。

15時間は「長すぎる」わけではないようです

意外だったのがここでした。各分野の研修時間について施設に聞くと、どの分野でも7割以上が「適切」と答えています。「長い」は2割程度、「短い」は数%です。

負担として語られるのは時間の長さより、まとめて園を空けられないことのほうでした。ヒアリングにこういう声があります。

15 時間の受講要件は負担が大きく、詰め込み型になりやすい。特に、子育て中の保育士等は1コマも欠かさずに受講することは大変。

15時間そのものではなく、1コマも落とせない受け方が効いている、ということになります。

園内研修が、もっと認められるかもしれません

前の記事で、園内研修を都道府県に申請して認められれば15時間が最大4時間短くなる、と書きました。ここも広がる方向で議論されています。

幼稚園と同様に公開保育が保育士等キャリアアップ研修の一部として認められるようにしたり

ヒアリングでは、現状の不公平がはっきり指摘されていました。

保育所では園内研修や公開保育がキャリアアップ研修として認められない

など、保育園と認定こども園で研修の自由度に差がある、と。地方では15時間まとめて園を離れるのが難しいので、園内研修を認めてほしい、という要望です。

幼稚園からの転職で実績が消える話

これも検討事項に入りました。

保育士等が幼稚園から保育所に転職等した場合でも研修の受講実績を引き継げるよう

現状はどうかというと、ヒアリングの言い方がそのまま答えになっています。

幼稚園での勤務から保育所に転職する場合など、キャリアアップ研修の実績が引き継がれないのは不合理である。

保育所→幼稚園は認められるのに、幼稚園→保育所は引き継げない。 前の記事で「幼稚園・こども園は数え方が違います」と書いた部分の、もっと不利な側です。いま幼稚園で研修を受けている人は、覚えておいて損はないと思います。

都道府県によって、かなり違います

研修は都道府県が実施主体なので、地域差が出ます。検討事項にもこう書かれています。

都道府県によって、研修の受講料、保育士等キャリアアップ研修として認められる研修の範囲、研修の受講時間の合算方法等にばらつきがある

ヒアリングの指摘はもっと具体的でした。

自治体によって研修の質に大きな差があり

毎年同じ内容の研修が形式的に実施されている例もある

さらに、制度の副作用として、こういう声も出ています。

内容の充実している研修に職員を派遣したくとも、加算措置の要件があるためにキャリアアップ研修に優先的に職員を派遣せざるを得ない現状がある。

いい研修より、加算になる研修が優先される。 園の側から見た正直な話です。

ほかに議論されていること

検討事項に挙がっているものを、短く並べます。どれも案の段階です。

  • 基礎・応用・発展のステップを設ける … 経験年数が違う人が同じ内容を受ける今の形を変える
  • 分野ごとに研修時間を変えられるようにする … いまは全分野が一律15時間
  • 園長研修の必須化 … ヒアリングでは「園長研修に来てほしい人ほど研修に来ない」という声が出ていた
  • 研修分野の見直し … 都道府県が「追加したほうがよい」と挙げたのは、虐待や性被害の防止、医療的ケア、宗教食への対応、そしてカスタマーハラスメント対策。逆に「削減したほうがよい」と挙がったのは保育実践だけだった

制度が成果を上げてきた面も、資料に書かれています。

研修受講と公定価格の紐づけにより、これまでは研修参加に意欲的でなかった施設等も含め、自主的に研修を受ける、または園が職員を研修に派遣する文化が根付いたと言える。

お金と結びつけたから研修が広がった。そのうえで、加算のためだけになっていないかが今回の論点になっている、という流れです。

明日、確かめられること

  • 自分が何年度に何を修了したか、控えておく … 再受講の仕組みができた場合、基準になるのは受講した年です。修了証は日付ごと保管しておくほうが安全です
  • いま幼稚園で研修を受けているなら、引き継ぎの扱いを確認する … 保育所へ移ると実績が消える可能性があります。見直しの対象にはなっていますが、まだ現行のままです
  • 自分の都道府県が、他県や団体の研修を認めているか調べる … 認めているかどうかで、受けられる研修の幅が変わります。都道府県の保育担当課に載っています

最後にひとつ。この記事の内容で、いま動く必要はありません。 決まっていない案の話です。

ただ、制度が変わるときは、だいたいこういう資料から始まります。 決まってから通知が来るより、こちらのほうが早い。60時間を積んでいる最中の人ほど、頭の片隅に置いておく価値があると思います。

決まったら、また書きます。

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