制度のきほん( 更新)

「インクルーシブ保育」って何? 実は2つの違う話が混ざっていました

「インクルーシブ保育」という言葉を、最近よく見かけるようになりました。

ただ、意味がふわっとしています。 「障害のある子もない子も一緒に」くらいの説明で終わっていることが多く、では現場で何をすればいいのかが分かりません。

そこで国の資料を読んでみました。すると、この言葉の下に、性格のまったく違う2つの話が混ざっていることが分かりました。

(学校でいう「インクルーシブ教育」との違いも、記事の後半で整理しています。)

まず、2つを分けます

こういう2つです。

どういう話かその子は園に在籍しているか
①障害児保育園に障害のある子が入園して、日々一緒に過ごすしている
②併設事業所との交流隣の児童発達支援事業所に通う子と、園の子が一緒に過ごすしていない

②の子は、園の子ではありません。 児童発達支援事業所というのは、障害のある子どもが通って発達の支援を受けるところです。保育所と同じ建物の中にあることがあり、そこに通ってくる子と、園の子を一緒に過ごさせよう、という話です。

ここを混ぜると分からなくなります。実際、国の資料でも扱っている文書が別でした。

  • ①のことを書いているのは … 「保育所等における障害のあるこどもの受入れについて」(令和6年12月)
  • ②のことを書いているのは … 「保育所等におけるインクルーシブ保育に関する留意事項等について」(令和4年12月)

つまり、「インクルーシブ保育」というタイトルがついた国の文書を開くと、中身は②の話でした。ここが、言葉のイメージとずれるところだと思います。

順番に見ていきます。

①園に障害のある子を受け入れる

まず、こちらは新しい話ではありません。ずっと行われてきたことです。

受け入れは、10年で2倍になっています

保育所等における障害のあるこどもの受入れ数は約9万人であり、10年前と比較すると約2倍となっております

約9万人。10年で2倍です。もう珍しいことではなくなっています。

そもそも、園は断れるのか

こども家庭庁が令和6年12月に出した文書に、はっきり書かれていました。根拠は障害者差別解消法です。

園を含む事業者には、こういう義務があります。

  • 障害を理由に不当な差別的取扱いをしてはならない
  • 社会的障壁を取り除いてほしいと言われたとき、負担が重すぎなければ合理的な配慮をしなければならない

そのうえで、してはいけないことの例が挙げられています。

  • 正当な理由なく、障害を理由として保育の提供を拒否すること
  • 正当な理由なく、場所や時間帯を制限すること
  • 正当な理由なく、保育標準時間の取扱いに差異を設けること

さらに、こう書かれています。

単に障害を理由として一律に保育時間や受入年齢の取扱いに差異を設けるといった対応は適当ではない

「障害のある子は午前中だけ」「3歳からしか受けない」といった一律の線引きは、それだけでは通らないということです。国は自治体に対して、そういう規定が条例や規則に残っていないか確認するようにまで求めています。

車椅子や補助犬、介助者の付き添いを理由にした取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いにあたるとされています。

でも「無条件に受け入れろ」とは書かれていません

ここも大事なところです。同じ資料に、断ってよい場合の判断の視点が示されています。

  • 安全の確保
  • 財産の保全
  • 事業の目的・内容・機能の維持
  • 損害発生の防止

こうした観点から、個別の事案ごとに、総合的・客観的に判断するとされています。「前例がないから」「大変そうだから」ではなく、その子とその園の具体的な状況で考える、ということです。

そして、断ると判断した場合には条件があります。

障害のあるこどもや保護者に丁寧かつ具体的にその理由を説明し、理解を得るように努めていただきますよう

理由を説明する義務がセットになっているわけです。

なお、障害のある子を手厚く扱うことや、合理的配慮によって他の子と違う扱いになることは、不当な差別的取扱いには当たらないとも書かれています。「特別扱いはできません」という説明は、法律の建て付けとは違うことになります。

お金の仕組みが、少し分かりにくい

障害のある子を受け入れると園にお金が出るのか。ここはややこしいので整理します。

認可保育所や認定こども園の場合、障害児保育の費用は「加算」ではなく、地方交付税で市町村に配られています。 国は市町村に、こういう考え方を示しています。

概ね障害児2名に対し保育士1名の配置を標準としつつ

一方、小規模保育などの地域型保育事業には「障害児保育加算」があります(障害児2人につき保育士1人)。ただしこの加算は、認可保育所などは対象外です。

つまり認可保育所で働いている場合、障害児保育のお金は市町村を経由して来ることになります。交付税だということは、自治体によって手厚さが変わりうるということでもあります。

このほかに、こういうものもあります。

  • 療育支援加算 … 主任保育士専任加算の対象で、障害児を受け入れている施設が、地域の子どもの療育支援に取り組む場合
  • 障害児受入促進事業 … 受け入れのために必要な改修費の補助
  • 医療的ケア児保育支援事業 … 看護師等の配置、研修の受講支援、補助者の配置などへの補助。自治体が手を挙げて実施する事業です

一人で抱えなくていい仕組みがあります

現場の立場でいちばん知っておく価値があるのは、これかもしれません。外から専門職が園に来る仕組みが2つあります。

  • 保育所等訪問支援 … 保育所を利用している障害のある子が集団生活に適応するための専門的な支援を、児童発達支援センター等が園を訪問して行うもの。子ども一人ひとりへの給付です
  • 巡回支援専門員 … 発達障害の支援についての知識と技術を持った専門員が保育所等を巡回し、「障害が気になる段階」から支援するもの

2つ目は、診断がついていない子についても相談できる点が大きいと思います。「気になるけれど、どう関わればいいか分からない」段階で使えるように設計されています。

また、保育士等キャリアアップ研修には「障害児保育」の分野があります。 修了して専門リーダーなどになれば、処遇改善等加算Ⅱの対象にもなります。

②隣の事業所の子と、一緒に過ごす

ここからが、国が「インクルーシブ保育」というタイトルで扱っているほうの話です。

令和5年3月まで、一緒に過ごせませんでした

同じ建物に保育所と児童発達支援事業所があって、保育士の数も部屋の広さも足りている。それでも、両方の子どもを同じ保育室で保育することは認められていませんでした。

仮に両児童を保育するのに必要な保育士や面積が確保されている場合であっても、認められないこととなっております

理由は、保育室や保育士が「その施設に特有の設備・専従の人員」とされていて、併設する施設と兼ねることができなかったからです。

これが令和4年11月の省令改正で変わりました。令和5年4月から、必要な保育士と面積を確保することを前提に、一緒に過ごせるようになっています。

念のため書いておくと、これは①の話ではありません。 園に在籍している障害のある子と他の子が一緒に過ごすことは、当然ずっとできていました。できなかったのは、隣の事業所に通う「よその子」と一緒にすることです。

ただし、条件は軽くありません

「一緒にしていい」と言われても、条件はきちんと決まっています。

職員の数は、両方の基準を満たす必要があります。

保育所の満3歳児40人が、併設する児童発達支援事業所の障害児20人と交流する場合、保育士の人員の基準については、それぞれ、保育所として満3歳児40人の基準である保育士2人以上、児童発達支援事業所として障害児20人の基準である保育士4人以上を満たしている必要がある

部屋の広さも、合計です。

交流を行う保育室の面積について、それぞれの面積基準に基づき、保育所として30㎡必要、児童発達支援事業所として20㎡必要な場合、保育室の面積は50㎡以上必要となる

一緒にしたから人が減らせる、という話ではありません。それぞれに必要な人と広さを、そのまま足すということです。

さらに、こういう点にも留意するよう書かれています。

  • 児童発達支援計画に、交流のねらいと支援内容を書き、保護者に説明して同意を得ること
  • 一日の中で発達支援の時間が十分に確保されるようにすること
  • 交流するときの活動は、保育所側の保育士も交えて検討すること

そして、お金は増えません

ここは正直に書いてあります。

あくまで交流しているものと整理し、保育所に対しては元々の利用児童数分のみを算定すること

交流しても、保育所に入る運営費は増えません。

両方の職員配置を満たし、広い部屋を用意し、計画を書き、説明して同意をもらう。それでいて収入は変わらない。やるかどうかは園の判断に委ねられているということになります。

小学校に上がると、話が変わります

ここまでは保育の話でした。小学校からは、仕組みそのものが別になります。

呼び名も変わります。保育では「インクルーシブ保育」、学校では「インクルーシブ教育」です。言葉は似ていますが、根拠になっている法律も、所管する省庁も別です。

学校側の根拠は、障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)です。文部科学省の通知は、冒頭でこう述べています。

特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念を構築することを旨として行われることが重要です

そのうえで、「障害のある子供と障害のない子供が可能な限り同じ場でともに学ぶことを追求する」とともに、一人一人の教育的ニーズに応える多様で柔軟な仕組みを整備することが重要だ、としています。

面白いのは、学校にも①と②に当たるものがあることです。

  • ①に当たるもの … どこに在籍するか
  • ②に当たるもの … 在籍先とは別の場で一緒に学ぶ「交流及び共同学習」

まず、在籍先を決めます

保育所には「在籍先を分ける」仕組みがありません。障害のある子もない子も、同じ園の同じクラスにいます。

小学校は違います。まずどこに在籍するかを決めるところから始まります。選択肢は4つです。

  • 通常の学級
  • 通常の学級に在籍しながら通級による指導を受ける
  • 特別支援学級
  • 特別支援学校

決めるのは市区町村の教育委員会です。文部科学省のQ&Aにはこう書かれています。

障害のある児童生徒の学びの場は、障害の状態、教育的ニーズ、学校や地域の状況や専門家の意見等を総合的に勘案し、本人及び保護者の意向を最大限尊重して市区町村教育委員会が判断します

そのすぐあとに、こう続きます。

なお、障害のない児童生徒については、保護者等の意向にかかわらず、通常の学級に在籍して学ぶこととなります

「どこで学ぶか」を決めるという手続きそのものが、障害のある子にだけ発生する。 ここが保育所との一番の違いです。

在籍先とは別に、一緒に学ぶ仕組みがあります

「交流及び共同学習」といいます。障害者基本法に、国と地方公共団体が積極的に進めなければならないと書かれているものです。

特別支援学級に在籍しながら、通常の学級で一緒に授業を受ける。これがその形です。在籍していない場に参加するという意味で、構造は保育の②に似ています。

ただし、時間に目安が置かれています

ここが分かれ目でした。文部科学省が令和4年に出した通知に、こう書かれています。

特別支援学級に在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級において児童生徒の一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じた授業を行うこと

つまり特別支援学級に在籍しているなら、授業の半分以上はそちらで受けるのが原則。大半の時間を通常の学級で過ごしているなら、在籍先そのものを変えることを検討すべきだ、とも書かれています。

背景には調査結果があります。総授業時数の半分以上を交流及び共同学習として通常の学級で過ごしている児童生徒は、小学校で54%、中学校で49%。 しかも地域差が大きく、都道府県等別に見ると最大97%、最低3%でした。

この通知は、賛否が分かれています

文部科学省は「むしろインクルーシブを推進するもの」という立場です。特別支援学級で半分以上学ぶ必要のない子は通常の学級に在籍を変えるよう促すもの、という説明で、Q&Aでは「撤回の予定はございません」と明言しています。

一方で2024年3月、大阪弁護士会がこの「半分以上」の部分を撤回するよう勧告しています。障害者権利条約が求めるインクルーシブ教育に反する、という立場です。

どちらが正しいという答えは、資料からは出ませんでした。 ここは今も議論が続いているところです。

保育士の側から見ると

卒園していく子の家庭が、この選択を迎えます。

だから「小学校でも同じように過ごせますよ」とは、簡単には言えません。 保育所では当たり前だった「同じクラスにいる」が、小学校では選択と手続きの結果になるからです。

もうひとつ、通知には「改善が必要な事例」としてこう挙げられています。

交流及び共同学習において、通常の学級の担任のみに指導が委ねられ、必要な体制が整えられていないことにより、通常の学級及び特別支援学級の児童生徒双方にとって十分な学びが得られていない

体制が整わないまま一緒にすると、どちらの子どもも損をする。 これは、保育の②で見た「人と広さをそのまま足す」という条件と、同じことを言っているように読めます。

小1プロブレムの記事でも書いたとおり、保育所と小学校の間には段差があります。障害のある子の場合、その段差はもっとはっきりした形で現れる、ということになります。

「統合保育」という言葉について

養成校や研修で「統合保育とインクルーシブ保育の違い」を習った方がいるかもしれません。障害のある子を、障害のない子の集団に統合する形と、最初から分けない形の対比として説明されることが多い言葉です。

ただ、国の文書を探しても「統合保育」は出てきませんでした。

資料統合保育インクルーシブ
保育所保育指針(告示)0回0回
保育所保育指針解説(379ページ)0回0回
令和4年12月の事務連絡0回1回(題名)
令和6年12月の事務連絡0回0回

「インクルーシブ」のほうも、ほとんど使われていません。 指針解説に出てくるのは「インクルージョン」が1回だけ。令和4年の事務連絡は題名に「保育所等におけるインクルーシブ保育に関する留意事項等について」と入っていますが、本文では使われていません。

そして令和6年の事務連絡は、題名からしてこうです。

「保育所等における障害のあるこどもの受入れについて」

インクルーシブという語を使わず、「受入れ」という事実の言葉で通しています。

つまり「統合保育かインクルーシブ保育か」という対比は、現場や養成校の側の言葉であって、国はどちらの言葉でも制度を組んでいません。組まれているのは、この記事で見てきた①受入れの体制と②併設事業所との交流という、2つの具体的な仕組みのほうです。

用語の違いを気にするより、自分の園でこの2つがどうなっているかを見るほうが早いと思います。

なお、規模の数字は令和6年の事務連絡に載っています。

保育所等における障害のあるこどもの受入れ数は約9万人であり、10年前と比較すると約2倍となっております

10年で倍です。用語の整理が追いつかないうちに、現場のほうが先に変わってきた、ということかもしれません。

明日、確かめられること

長くなったので、3つにまとめます。

  1. 自分の園に、巡回支援専門員が来ているか聞いてみる。 来ていれば、気になる子について相談できます。市町村の事業なので、園によって使っているかどうかが違います
  2. 担当している子で、保育所等訪問支援を使っている子がいるか確認する。 使っていれば、訪問してくる支援員と話せます
  3. 「インクルーシブ保育」という言葉が出てきたら、①と②のどちらの話か聞いてみる。 園に受け入れる話なのか、隣の事業所との交流の話なのかで、必要なものがまったく違います

最後に

読んでみて分かったのは、国の資料が「受け入れなさい」だけを言っているわけではないということでした。

断ってよい場合の視点も書いてあるし、断るなら理由を説明しなさいとも書いてある。一緒に過ごすための条件も、人と広さで具体的に決まっている。そして、その分のお金が増えないことも正直に書いてある。

きれいごとで押し切ろうとはしていません。 そのうえで、「単に障害を理由に一律に線を引くのはだめ」というところだけは、はっきりさせている。

そして今回いちばん役に立ったのは、①と②を分けて考えることでした。同じ「インクルーシブ保育」でも、園に受け入れる話と、隣の事業所と交流する話は別物です。どちらの話をしているのかが分かるだけで、必要な準備がはっきりします。

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