制度のきほん

ヒヤリハットに「反省」の欄は要るのか 分析するのは園の仕事です

ヒヤリハットが出てこない。集めても、どう活かせばいいのか分からない。園の安全の話になると、よく出てくる悩みです。

報告用紙を一度見てみてください。「原因」「反省」「対策」という欄が並んでいないでしょうか。床に落ちていた絆創膏を見つけただけの人が、そこまで埋めなければならないとしたら、出すのをやめたくなるのは自然なことです。

国のガイドラインと保育所保育指針解説を読むと、ヒヤリハットの要因を分析して対策を立てるのは、気づいた人ではなく、園の側の役割として書かれています。

ひとまず、この表だけで足ります

気づいた人園(施設長・主任など)
国のガイドラインでの役割報告を作って出す集めて要因を分析し、対策を立て、研修で職員に伝える
書くこといつ、どこで、何があったかどう分類するか、どう対応するか
終わり方出したら、そこで役目は終わり対応したことを、職員に返す

国の資料に書かれていること

国の事故防止のガイドライン(2016年)は、ヒヤリハットの扱いを段階に分けて書いています。

ア 職員は、重大事故が発生するリスクがあった場面に関わった場合には、ヒヤリハット報告を作成し、施設・事業者に提出する。 イ 施設・事業者は、集められたヒヤリハット報告の中から、上記①のア~オの重大事故が発生しやすい場面において、重大事故が発生するリスクに対しての要因分析を行い、事故防止対策を講じる。

職員の役割として書かれているのは、報告を作って出すところまでです。要因の分析と対策は、施設・事業者の役割として書かれています。このあと、対策を研修で職員に伝える、と続きます。ガイドラインはこれらを「行うことが考えられる」取組として挙げています。

保育所保育指針解説も、同じ形で書いています。

重大事故の発生防止のため、あと一歩で事故になるところであったという、ヒヤリ・ハット事例の収集及び要因の分析を行い、必要な対策を講じるなど、組織的に取組を行う。

同じ節には、事故防止は「施設長のリーダーシップの下、組織的に取り組む」とも書かれています。報告した一人ひとりが、原因と対策まで考える形にはなっていません。

「反省」の欄があると、何が起きるか

保育の安全を研究している掛札逸美さん(心理学博士、元産業技術総合研究所)は、園の報告書についてこう書いています。

あなたの園のヒヤリハット報告書や事故報告書(※※)には、「原因」「反省」「対策」といった欄がありますか?(きっとあります!)。まず、その欄をなくしましょう。それが第一歩。

理由として挙げているのは、気づいたことの多くは、原因が分からないか、分からなくても困らないものだということです。おもちゃが割れていたら、「割れていました。危ないので捨てます」で十分。そこに欄がずらりと並ぶと、せっかく気づいた人にとっては罰のようになり、書かなくなる。掛札さんは、気づいた人は気づいただけで「100点満点」だと書いています。

欄を埋めることが目的になると、別の問題も出てきます。掛札さんが例に挙げているのは、子どもが物を口に入れていた、という報告の後に書かれがちな「口に入れないように見守る」という対策です。子どもは口に入れることで世界を学んでいて、見ている目の前でも、口に入れるのは一瞬です。 書くべきなのは、口に入れても大丈夫な物と、危ないから使わない物の線引きのほうです。

これは、骨折事故の多くが職員の見ている中で起きている、という国のデータとも重なります(骨折事故の記事)。対策を「もっと気をつける」に置くと、同じことがまた起きます。

子どもから見ると

1歳児の部屋に、園で使っていない絆創膏が落ちていた。気づいた先生が「書くのが面倒だから」と黙って捨てれば、その日は何も起きません。ただ、なぜそこに落ちていたのか、ほかの部屋にもないのか、という話は誰にも届きません。

報告されなかった「あれ?」は、そのまま園の中に残ります。 そこで毎日遊んでいるのは子どもです。

「誰も責めない」ではない

「反省」の欄をなくすのは、何も考えないという意味ではありません。考える場所を、報告した人から園に移すということです。

掛札さんも、分析が要らないとは書いていません。高い所から子どもが落ちかけた、という報告については、「原因と予防を考える必要があります」としています。そのうえで、「知らない間に〇〇ちゃんが登った」は原因ではない、と書いています。子どものせいにして終わらせない、ということです。

そして、責任を負うのは報告を受けた側です。掛札さんは、「せっかく気づいて報告したのに、園は対応してくれない」状態では、職員のやる気は下がるばかりだと書いています。報告を集めておいて対応しないのは、園の側の問題です。

用紙をどう変えるか

掛札さんが勧めているのは、7.5センチ角の付箋です。

  • 書くのは、報告した日時と、何があったかだけ。落ちていた物は付箋に貼る
  • 書いた人は、決めたホワイトボードなどに貼るだけ
  • 毎日、園長や事務室の先生が見て分類し、対応を決めて付箋に書き込む
  • 対応が終わったものは、ノートに貼って残す

付箋でなくても、考え方は同じです。報告する人が書く欄を、日時とできごとだけにする。分類と対応は、受け取った側が書く。

ひとつ気をつけたいのは、ヒヤリハットと事故の線引きです。掛札さんは、食物アレルギーの子がアレルゲンを口にしたら、症状が出なくてもそれは「事故」だとしています。掛札さんの言葉では、「発症しなければヒヤリハット」ではありません。また、ケガなどで自治体に出す事故の報告は、ここで話している園の中の報告とは別のものです。

明日、確かめられること

  1. 園のヒヤリハット報告の用紙を見て、報告する人が書く欄がいくつあるか数える
  2. 「原因」「反省」「対策」の欄があるなら、誰が書く欄なのかを主任や園長と確かめる
  3. 最近の報告に「見守る」「気をつける」という対策が並んでいないか見る。並んでいたら、物や配置で変えられることがないか考える
  4. 報告した人に、誰がどうやって「対応しました」を返しているかを確かめる

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