ニュース解説

保育ICTで何がどれだけ減ったか 国の事例集に分単位で載っています

「ICTを入れると業務が楽になる」と言われます。

では、どれくらい減るのか。 こども家庭庁の事業の事例集に、分単位で載っていました。

何の事業か

保育ICTラボ事業といいます。民間事業者が自治体と組んで、ICTの実践公開、相談窓口の設置、人材育成などをまとめて行う取り組みに、国が費用を出すものです。

令和7年度は全国12の事業が採択されていました。連携した自治体はこうです。

北海道厚沢部町 / 茨城県つくば市 / 栃木県栃木市 / 千葉県柏市 / 東京都江東区・町田市 / 埼玉県 / 静岡県 / 大阪府豊中市・大阪市 / 兵庫県神戸市 / 岡山県岡山市 / 愛媛県松前町 / 福岡県宗像市 / 沖縄県豊見城市

政令市も、人口3,000人の町も入っています。今年度も続いていて、長崎県では県内16か所で実証が始まったと報じられています(長崎新聞、9月10日)。

そして令和7年度分の事例集(50ページ)とレポートが、すでに公開されています。

何分減ったのか

事例集に出てくる数字を拾うと、こうなっていました。

変化
日誌作成1クラス当たり約15分 → 約6分
月末の事務作業保育士一人当たり月4時間削減
帳票・指導計画作成帳票を4種類 → 2種類
紙の使用量約54%まで削減
別の自治体の事例記録ミスほぼゼロ、職員負担約120時間軽減

東京都町田市の町田わかくさ保育園(園児167名・6クラス・保育士38名)では、

管理者の作業時間は 1/10、日々書き込みを行う保育士の作業時間も半分に短縮

とされています。2017年から順に導入してきた園です。

時間以外の変化も書かれていました。

書類をためなくなり、期限内に作成できるように

字の綺麗さによる差がなくなって書類が見やすくなり、職員どうしで保育計画を参考にできるようになった、とも書かれています。時間の話だけでなく、書類の回り方まで変わっているということになります。

減らさなかったものもあります

同じ園のレポートの見出しが「作業時間90%削減!それでも連絡帳は手書き」でした。

保護者への連絡帳は「あえて手書き」を継続しているのです

理由はこう書かれています。

保護者とのコミュニケーションや信頼関係を築く上で「大事にしたい」部分であり

レポートはこれを

「残すべきものと効率化すべきもの」を峻別し

と表現しています。ICT化=全部デジタルにすること、ではありません。 ここがこの事例集でいちばん実務に効くところだと思いました。

減らすものを決めるのと同じくらい、残すものを決めている。連絡帳を手書きで残すために、ほかを9割削ったとも読めます。

うまくいった話だけではありません

事例集は成功例を集めたものなので、そこは差し引いて読む必要があります。ただ、同じレポートに正直な部分も書かれていました。

導入直後は、かえって増えます。

導入直後は一時的に業務時間が増えたものの

システムに馴染むまでの期間があり、効果が出たのは約1年後とされています。

失うものもあります。

ゼロから全てを考える機会が減るというデメリットも認識されています

そのうえで園はこう結論づけています。

この保育士さんの多忙さを思えば、業務効率化できてよかった

得と損を両方見たうえで、得のほうを取ったという書き方です。ここを飛ばして数字だけ並べると、ただの宣伝になります。

誰を担当にするかで決まります

事例集は、園内にICTの責任者を置くことが効果的だったとしています。その人選の話が具体的でした。

ICT 活用の責任者に適した人は、単に「システムの操作が得意な人」や 「 IT の設定に詳しい人」ではありません

では何をする人かというと、

責任者は「教える人」ではなく、まずは「 現場の困りごとを聞く人 」か らスタートするのがおすすめです

詳しい人ではなく、聞ける人。 園でこの役を決めるとき、たいてい「パソコンが得意な若手」に回りがちですが、事例集はそこを明確に否定しています。

静岡県の取り組みには、ICTをこう位置づけた記述もありました。

ICT 活用による業務負担軽減から、 不適切保育・離職防止 につなげる

不適切保育の記事に書いた「叱らなくて済む環境」と同じ向きです。人の頑張りで支えている部分を、環境の側に移す。 ICTもその手段として扱われています。

補助には地域差があります

現場からの提言として、こういう指摘も載っていました。

東京都在住の園だからこそ、手厚い補助(年間150 万円を 6 年間など)を活用できているが、他自治体の園との格差を是正するため、国による補助金制度の充実が不可欠

同じ事例集に載っている園でも、使えたお金が違うということです。「あの園はできている」という話を、そのまま自分の園に当てはめられるとは限りません。

現実の数字も押さえておきます。こども家庭庁が令和7年度から始めた経営情報の公表制度の集計では、ICTの4機能(登降園管理・保護者との連絡・計画と記録・キャッシュレス決済)を全部導入している園は、全体の13%(私立で16%)でした。事例集に出てくるのは、そこから抜け出した園の話です。

明日、確かめられること

  • 自分の園で、何にいちばん時間がかかっているかを数える。 事例集の数字は日誌15分、月末4時間という粒度です。同じ粒度で自分の園を測らないと、比べようがありません
  • ICTの担当が誰か、決まっているか確認する。 いなければ、決めるときの基準は「操作が得意な人」ではありません
  • 加算が使えるか園に聞く。 保育ICT推進加算があります。導入費用の話はそちらに書きました
  • 事例集は誰でも読めます。 50ページで、園の規模や地域ごとに分かれています。自分の園に近い規模の事例を探せます

最後にひとつ。この事例集を読んで「うちは遅れている」と思う必要はないと思います。全体の13%しか4機能を揃えていないのですから、揃っていないほうが多数派です。

ただ、日誌に15分かかっているのか6分なのかは、1年で大きな差になります。 1クラス1日9分として、年間200日で30時間です。その時間をどこに使うかは、また別の話ですが。

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